ネットフリックスが急成長できたのはなぜか。映像業界に詳しいジャーナリストの長谷川朋子さんは「ネットフリックスの急成長を支えたひとつは、オリジナル作品だ。その原点は『ハウス・オブ・カード』の成功にある」という――。

※本稿は、『NETFLIX 戦略と流儀』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

ネットフリックス本社
写真=AFP/アフロ
2021年2月4日、カリフォルニアのハリウッドにあるネットフリックス本社〔撮影=VALERIE MACON(米)〕

『ハウス・オブ・カード』で業界内の目が変わった

ネットフリックスがディズニーなどと並ぶ世界有数のスタジオに勢いよく上り詰めていくことができた理由を探っていく。それを語るのに欠かせない、アメリカ発のオリジナルコンテンツを通じてネットフリックスの素顔をあぶり出していくとしよう。

筆者がネットフリックスのブレイクを感じ取った瞬間は、本書の第2章でも述べたように、2014年にフランス・カンヌで開催されたMIPCOM(ミプコム。テレビ番組コンテンツの国際見本市)でのことだった。ネットフリックスのキーノートに業界関係者が詰めかけ、1000人収容の会場で入場制限がかかったほどの熱狂ぶりをみせたからだ。これまで10年以上カンヌのMIPCOMに通ってきたなかで、これほどの熱気に遭遇したのは初めてのことだった。我こそはネットフリックスと仕事をしたい。業界に革命を起こすネットフリックスの戦略を聞きたい。ネットフリックスっていったい何者? そんな空気に包まれていた。

カンヌでの注目ぶりには明確な理由があった。デジタルファーストで勝負に出たネットフリックス・オリジナルシリーズ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の成功によって業界内でネットフリックスに対する見る目が大きく変化したからだ。

2013年に世界同時配信、瞬く間に話題を呼んだ

本書の第2章で述べたように、『ハウス・オブ・カード』は、アメリカ政界のドロドロとした権力闘争を描くドラマである。主人公フランクがアメリカ大統領に上り詰めていく、そしてその妻であるクレアも大統領にまでのし上がっていく様子を描いている。ハリウッドの第一線で活躍し、ギャラもトップクラスのデヴィッド・フィンチャーを監督に迎え、1話5億円とも言われる破格の製作費をかけた勝負策である。

2013年に世界に同時配信されると、瞬く間に評判を呼んだ。日本では当時ネットフリックスがまだ参入していなかったため、その盛り上がりを肌で感じることができなかったが、同時に日本のような未配信地域では映画専門チャンネルなどで放送したりDVD展開するほど力の入れようだった。従来のウィンドウ戦略に囚われないやり方が業界にインパクトを与えていた。

そして2013年のプライムタイム・エミー賞で、ネット配信のオリジナルドラマでは史上初となる主要部門にノミネートされる快挙を果たす。エミー賞とは、映画界の「アカデミー賞」、音楽界の「グラミー賞」と称される米テレビ業界では最高の栄誉とされるアワードである。最終的に(2019年までに)、テレビ業界で最も影響力あるエミー賞で「演出監督賞(ドラマシリーズ部門)」など合計7つの賞をかっさらったのだ。