ハリウッドを代表する監督や俳優陣が次々と参加

『ハウス・オブ・カード』の成功はテレビ業界全体の流れも変えていった。それまで、ネットフリックスは買い付けた番組をデジタル配信する会社に過ぎなかったわけだが、自ら制作費を投じて本格的な作品の担い手になったことにより、ディズニーやワーナーに比肩するスタジオとしての顔を持ち、その存在感をじわじわと示していった。

また、ライバル的存在のアマゾンもスタジオとしての機能を持ち始めたことで、オリジナルコンテンツそのものに商品価値が増して、ハリウッドを代表する監督や俳優陣が次々とオリジナルに関心を寄せていった。意外だったのはウディ・アレン監督である。彼は『ハウス・オブ・カード』を見るや否や、アマゾンでオリジナルドラマを撮る話を進めることになったとか。

後出のように、スティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシ、スティーヴン・ソダーバーグ、コーエン兄弟といったヒットメーカーがネットフリックスでオリジナル作品を打ち出し、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ケビン・コスナー、ブラッド・ピット、サンドラ・ブロック、ティルダ・スウィントン、ウィル・スミスといったスター俳優が、ネットフリックス・オリジナルに華を添える。

ハリウッド
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クリエイター育成で見せる「勝負師の顔」

一方でネットフリックスは、次世代を担うクリエイター育成にも力を入れていく。ネットフリックス・オリジナルの最大ヒット作と言われるSFホラー『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のクリエイター兼ショーランナー(制作総責任者)のダファー兄弟はまさにその代表例にあたる。どのスタジオにも断られた企画を拾い上げ、無名だった彼らに手を差し伸べたネットフリックスは先見の明があったというわけだが、同時に勝負師の顔も見えてくる。人々が見たことのないもの、見る者をワクワクさせる面白いものとは、いったい何なのか。探求心を持ちつづけ、それを制作の奥義として勝負をかけたからこそ『ストレンジャー・シングス』のヒットがある。

クリエイターのジェンジ・コーハンもその一人である。彼女の名を世界に広めたのは、女性刑務所を舞台にしたコメディドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』である。この作品はネットフリックスの最高コンテンツ責任者のテッド・サランドス(のちに共同CEO)が一押ししたことでドラマ化が実現したと言われている。レズビアンもバイセクシュアルも個性のひとつとして、塀の中で生き生きとした女性囚人たちの人間模様を描く話が7シーズンにもわたって展開され、惜しまれながら全91話で完結する。ネットフリックス・オリジナルのロングランヒットの代表作になった。