すぐに成果が出なくても、重要な研究はある

「啓明会はせっつくこともなく、鎌倉芳太郎の仕事を待ち続けたわけです。それが現在の首里城の再建に欠かせない基礎史料を生んだ。調査や研究において、彼のような在野の人間が成す力の大きさを表す一例でしょう。最近は研究費といえばすぐに成果の出るもの、あるいはビジネスにつながるものばかりが重視される風潮がありますが、彼の仕事のように長い時間をかけて結実したり、次の世代になって花開いたりする重要な研究もある」

「本来、研究費の助成とは、そういう分野にもきちんと目を向けるべきですし、そうした助成の考え方が新しいものを生み出していく面もあるはずです。その意味で、鉄馬の作った日本最初の財団である啓明会が、そのような姿勢を強く持つ団体であったことの意義は大きいと思うのです」

「もう一つ付け加えれば、鉄馬は転居した吉祥寺にアントニン・レーモンド設計の邸宅を1934年に竣工させましたが、この建物が現存しており、昨今武蔵野市が購入・活用する方向で検討されています。建築から86年を経て、再び赤星鉄馬の存在が注目されているのが本書の刊行と重なったのは偶然ではないのかもしれません」

与那原さんはその啓明会の功績と歴史的な意味を、これまで日本近現代史にほとんど登場しなかった「消えた富豪」の名前ともに記録した。想像力を駆使したその粘り強い取材・調査を結実させた本書からは、「人物評伝を書く・読む」ということの醍醐味が伝わってくるはずだ。

(聞き手・構成=稲泉 連)
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