インフルなら休めるが、カゼなら休めない?

近年、インフルエンザに関しては、このような感染者隔離が徐々にではあるものの広まってきたが、それと同時に「インフルエンザだったら会社に行けないのですが、カゼならば休めないので」という鞄を抱えたスーツ姿の38℃超えの熱発者が、インフルエンザの検査を求めて、朝の開院とほぼ同時に来院することが増えてきた。

この方たちは、検査で陽性反応が出れば、出勤をあきらめ帰宅するのだが、陰性ならば、そのまま電車に乗って会社に出勤するつもりだ。鞄を持ったスーツ姿であるのは、そのためだ。このような行為がインフルエンザをはじめとした感染症流行の原因として、決して無視できないものであると私は常々訴えているが、毎年同様のことが繰り返される。

「熱が出て具合が悪いにもかかわらず頑張って職場に顔を出すのが、社会人としての常識」というワケの分からぬ考え方が無くなって、「熱が出て具合が悪いにもかかわらず無理やり職場に来るのは、社会人として非常識」というまっとうな考え方が主流になれば、インフルエンザはこれほど流行しないだろう。(2011年2月20日)

これは私が、2011年冬のインフルエンザ流行期にツイッターで投稿したものだ。毎年インフルエンザ流行期になるとリツイートされて拡散され続けているものの、何年経っても現状が変わってきているとはいいがたい。多くの人はこの理不尽に気づいていることと思うが、とてもSNSの投稿で変えられるような問題ではない。私たち一人ひとりが認識と行動を変えていくことが必要だと思う。

このように見てくると、毎年のインフルエンザ大流行の要因は、ウイルスの型や気候のせいだけではなく、私たちの社会にもあることがわかる。今後、新型コロナウイルスの国内大流行を阻止するためにも、早急に私たちの意識を切り替える必要があるだろう。

無理して頑張るのは美徳ではない

「風邪でも、絶対に休めないあなたへ。」
「インフルエンザだったら休めるけど、カゼだと休めないので」
「皆勤賞のため」

これらの考え方を社会として見直していかない限り、インフルエンザの大流行は毎年毎年繰り返されるだろう。

木村知『病気は社会が引き起こす』(角川新書)

インフルエンザであるか否かにかかわらず、体調不良の場合は、自分自身の安静のためにも、周囲への感染拡大を防ぐ意味でも、何をおいてもまず休む、何よりこの認識を徹底すべきだ。

職場や学校は、そのような休むべき人を積極的に休ませるという体制を早急に作っていかなければならないと強く思う。だれでも体調を崩すことはある。困ったときは、お互いさまだ。

この国には、つらい症状があるにもかかわらず無理をして出勤したり、足を痛めたスポーツ選手が歯を食いしばって試合に出続けるといった姿を「よく頑張った。偉い、素晴らしい」と美談として語る風潮が、未だに根強く残っている。しかし、このような無理する姿勢を「美しい手本」のように扱うことは、無理せず休むことを選択した人に罪悪感を覚えさせるとともに、「休みたい」と思う人の居場所を奪ってしまうことにつながりかねない。

社会的に影響力を持つ有名人やスポーツ選手は、体調不良やケガのときは率先して休む。そして、その姿を広く私たちに見せることによって、少しでもこの国の悪しき風潮を変える方向に、ぜひ手を貸していただきたい。

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