母親はバリキャリ、父親は主夫……多様性重視のリベラルな作風

「もし動物と話せたら楽しいだろうな」と幼少期に想像してみたことのある人は多いだろう。そういうキャッチーな設定と親しみやすいイラストがまずは子どもを惹きつける。

しかし、それのいったいどこが意識の高い内容なのか? と思うかもしれない。実はしっかり中身を読んでいくと、多様性重視のリベラルな作風であり、子どもたちに深く考えさせるストーリーだということがわかる。

『動物と話せる少女リリアーネ』13巻の表紙。

リリアーネの家族は、ママはテレビのレポーターで、バリバリのキャリアウーマン。パパは植物に関する専門的な知識を持っているが、現在は主夫として妻や娘を支える。そして祖母は機械や工作に強い。

いかにもドイツらしいと言うべきか、ジェンダー平等に対する意識の高さを感じさせる、リベラルな家庭像である。そして多様な家族が存在するがゆえの悩み、苦しみを描いていく。

リリアーネのママは、夢がかなって政治番組の司会者になる。母親が「最高の番組にするためなら、なんでもやる」と言ったのを聞いたリリアーネは、「ママは今よりもずっと家にいなくなるのか」と感じて悲しくなる。リリアーネが「親がいるのってすごくつらいことね」と漏らすと、親友イザヤは「いないのはもっとつらいよ」と自身の実感を込めて言う。

題材は親子関係の難しさ、人種差別、性的マイノリティ……

また、リリアーネをいじめる姉妹が登場するが、彼女たちは実は親から虐待されていたことが判明する。妹のほうは徐々にリリアーネと打ち解けていくが、対照的に姉の方は悪事から抜け出せずに施設送りになる。

小学校中高学年向け小説であるにもかかわらず、このように家族ごとにある親子関係の難しさをここまで正面から描くのだ。

さらに動物の話ではあるが、ライオンとトラの種族を超えた愛や、ペンギンのオスの同性愛を描く。これらは実話をもとにしたエピソードではあるが、動物をたとえに反レイシズム(人種差別)やLGBTQ(セクシャルマイノリティ)の存在を自然に扱ったものだと言える。『動物と話せる少女リリアーネ』はこうした題材を通じて、世の中には多様なかたちでの愛や家族のありかた、価値観があるのだと読者に伝える。