カネ目当てのワルが集まる
周辺には、カネ目当てのワルが集まる。怪しげな“祈祷師”の影響なのか、御茶ノ水に建てたタワービルの100畳ほどもある一夫の部屋には、金色に輝く3メートルもの仏像が鎮座していた。
一夫はフジの上場過程で巨利を得たうえに、96年6月にはテレ朝全株を418億円で売却してしまう。買い手にルパート・マードックと孫正義がいるとわかり、テレ朝と朝日新聞に激震が走る。対応に苦慮しながらも、朝日首脳陣はこの機に乗じてテレ朝支配の確立を目論む。その動きを活写した第三章は、本書前半の白眉といっていい。
98年末、一夫の強引な錬金術に、東京国税局が鉄槌を下す。テレ朝株売却に伴って250億円の申告漏れがあったとし、110億円を追徴課税。これを境に、一夫の威光は徐々に失われていく。
フジの状況はさらに深刻だった。赤尾家との厄介な交渉はもちろん、クーデターで追い落としたはずの鹿内家も、フジの親会社ニッポン放送の大株主として宏明が存在を誇示し続けている。そんな状況を打破すべく、日枝久社長がフジとニッポン放送の上場に舵を切ったことが、大波乱を招いてしまう。
村上世彰、堀江貴文。フジ買収を狙う簒奪者が名乗りを上げたのだ。謀略じみた村上の手口と、開けっ広げに正面突破を試みる堀江の圧力に、日枝は土俵際まで追い詰められる。いまも記憶に新しい攻防戦の内幕は、どんなテレビドラマよりも面白い。
骨太なライターの堂々たる「帰還」に拍手を送る。