セクハラ・パワハラの横行でホームヘルパーになり手がいない
Tさんは「もうひとつ在宅介護が成り立たなくなる原因がある」と言います。ホームヘルパーの人手不足が深刻なのだそうです。
「ホームヘルパーの9割は女性です。女性が利用者さんの自宅にひとりで行って身体介護や生活援助のサービスを行うわけです。なかには『掃除の仕方が悪い』とか、『食事がまずい』とかとキツい言葉を投げかけてくる人もいる。モラハラですよね。また、男性の利用者さんには女性を蔑視するタイプもいますし、セクハラまがいの行為をする人もいる。そんな目に遭う可能性がある仕事をしているにもかかわらず平均時給は1200円から1500円といったところ。これでは続けたくなくなる人が出ますよ」
厚労省が発表した2018年度の統計によればホームヘルパーの平均年齢が46.8歳ですが、TさんもIさんも首をひねります。ふたりが仕事を依頼している人は50代以上の方ばかりなのだそうです。
「若い人は利用者さんから受けたハラスメントなどが原因で、すぐに辞めてしまうケースが多いのです。その結果、残るのは長年経験を積み、少々のハラスメントを受けても、うまくかわす術を身につけていて、精神的にも耐性のあるベテランということになるのです」(Tさん)
そのためヘルパーの高齢化が進んでいるといいます。
「70代の方も珍しくありません。これでは“老々介護”ですよ。つい最近までヘルパーをしていた方が、今は介護される側になっているということもよくあります。でも、そうした高齢のヘルパーさんにも頼らなければならないのが在宅介護の現実なんです」
人材不足対策は、ヘルパーの報酬を上げることしかない
ホームヘルパーは健康でなければ務まりません。高齢化が進めば引退する人も増える。しかし、若い人は定着しない。ヘルパー不足は今後ますます深刻化するというわけです。
「団塊の世代が後期高齢者になる2025年は近づいており、要介護人口が増える一方なのにこの事態なのです。今のままでは近い将来、在宅介護は成り立たなくなるでしょう。そうならないための手だては月並みですがヘルパーさんの待遇改善しかありません。利用者さんのハラスメントは止めようがないですから、その大変さに見合う給与を保証することだと思います」(Tさん)
なお、ハラスメントなどで問題のある利用者は事業所やヘルパーに情報が伝わり、サービス提供を断られることも多いそうです。「在宅介護を続けるには利用者がモラルを守ってホームヘルパーと接することも心に留めておいてほしいですね」と、Tさんは最後につけ加えました。