福祉財源が枯渇している国が「悪質利用者」対策に乗り出した

Tさんによれば、確かに日常生活のことは自力でできるにもかかわらずヘルパーのサービスに頼ろうとする利用者がいることも事実だといいます。1日3回、月にすれば90回近く、ヘルパーの生活援助を入れてほしいとケアマネジャーに言ってくる人もいるそうです。厚労省の設けた回数規定なら、1日1回から1.5回程度。そうした無駄使いは防げるわけです。

写真=iStock.com/sakai000
※写真はイメージです

「しかし、認知症や寝たきりの方など、ヘルパーさんが来てくれなければ生活できないケースもあるんです。一律に回数を決めるのは問題があると思います」(Tさん)

この規定が巧妙なのは“回数制限”ではなく“届け出が必要”としている点です。必要な人は回数を超えてもいい。ただし、その場合は届け出をしてください、としているのです。

「われわれケアマネからすれば、これは制限と同じなんです。30人以上の利用者さんを担当し、すべての方の状態を日々チェックしているうえ、数多くの事務処理に日々追われている。本音をいえば届け出という仕事を新たに背負いたくないんです。加えて福祉財政がひっ迫していることや行政サイドが生活援助削減の方向性を打ち出していることも理解しており、心理的に生活援助サービスは設定された回数以内で収めようとするわけです」

業者側には利幅の大きい介護サービスをしたい思惑がある

こうした生活援助削減の流れがあることを補強する話をしてくれたのが、同僚のケアマネジャーIさんです。

「訪問介護の事業所も最近は生活援助の仕事を受けたがらなくなっています。介護報酬の単価が安いからです。生活援助の利用者負担は1時間250円という話が出ましたが、身体介護は約400円、生活援助と身体介護を合わせた複合サービスは約350円。1回のサービスの報酬はそれぞれ約4000円と約3500円になりますから、事業所の売り上げを考えると身体介護、あるいは複合サービスの仕事をしたほうがいいわけです」

とはいえ利用者が生活援助を必要としていれば、ケアマネジャーは事業所に依頼することになる。「報酬は少ないのですが、築いてきた信頼関係で引き受けてもらっている状況です」といいます。

洗濯、食事の準備、買い物など生活援助サービスを受けなければ介護生活が続けられない人も多いですが、今後はそれすら満足に受けられなくなる可能性が高いのです。