過去10年で沖縄の小売業は全く成長しなかった

例えば、ここ数年のうちに開業した沖縄の大型商業施設の多くが不振店に陥っているのは、全国最下位の所得の島に、全国平均の1.4倍の総合スーパー、1.2倍の食品スーパーが存在しているオーバーストア状態だからにほかなりません。

一昨年、那覇市の中心に誕生した「那覇OPA」は開業して1年もたたないうちに空きテナントが目立ちましたし(「琉球新報」2019年9月3日)、昨年開業した「サンエー浦添西海岸パルコシティ」は目標未達です(「沖縄タイムス+プラス」2019年12月19日)。そんな中、今春には、大型商業施設である「イーアス沖縄豊崎」も開業します(「琉球新報」2019年12月7日)。

通常であれば、購買力が低く、不振店の多い経済圏に、これほどの出店はしません。しかし、膨大な補助金が流れ込み、その多くは公共事業や建築業に使われるので、重要な観光資源でもある美しい珊瑚サンゴ礁の海を埋め立てて、いろいろな施設やショッピングセンターなどを造ることでオーバーストアが加速しています。過去10年間で沖縄県の小売業が全く成長しなかったのは、それによる過当競争も原因の一つかと思われます。

このように、沖縄の経済は、全体としては成長しているものの、それを牽引する産業は観光関連産業ではなく、それとは直接的には関係のない建設業などであり、そのエンジンとなっているのは膨大な額の補助金です。

地域の経済サイクルを回す「付加価値」を

その地域の経済サイクルを回すためには、(1)需要に対する供給を域内調達すること、(2)それで得た収入を従業員に還元するなどして新たな域内消費を生み出すこと、の両軸が必要です。

ポイントとなるのは付加価値です。モノやサービスに付加価値があるからこそ選ばれて(1)が成り立ちます。(2)に関しては、地元紙は所得向上のために正社員を増やすことを提言していますが、所得と相関が高いのは正社員比率ではなく労働生産性であることが明らかになっています。そして「労働生産性=付加価値売上÷従業員数」ですから、ここでもやはり付加価値が重要となります。

付加価値を高めるには、ほかには無い価値(独自性)を生み出すか、ほかよりも圧倒的に優れていること(突出性)のいずれかが必要であり、誰が見ても分かる客観的な指標などによる裏付けが必要です。

独自性と突出性の無いモノやサービスは、安価であること以外に勝負できないコモディティに成り下がってしまいます。経済の原動力を「安価であること」にしてしまうと、厳しい労働環境や低い賃金となって従業員にしわ寄せがいきます。市場経済において、従業員は購買者でもありますから、そうしたことによる所得や余暇時間の減少は消費の低下に繋がります。

消費の低下によって、地域企業の売り上げと利益は上がらず、それがさらに労働環境や賃金に影響する……という負のサイクルに陥り、稼ぐ力は弱体化していきます。