外国人客にとっては「爆買いするのに一番近い日本」
そもそも、近年の観光客の増加要因は、沖縄の魅力や観光戦略の成果というよりも、単なる円安ボーナスによるものです。つまり、東アジア諸国の外国人客にとっては、自国通貨価値の上昇を背景に「買物(爆買い)をするのに一番近い日本」として、日本人客にとっては、可処分所得の伸び悩みと自国通貨価値の下落を背景に「ハワイなどの海外よりも安価で近場のリゾート地」として支持を得たことによるものです。
実際、沖縄の観光業は、観光客数こそハワイを超えていますが、観光収入は3分の1ほどしかありません。その外国人客も、爆買いの終焉と、滞在時間の短いクルーズ船客の増加によって消費額は減少の一途をたどっており、観光客数だけが増え続ける一方で、観光収入(インバウンド)は昨年度から減少に転じています。
そして、このことを県民は肌感覚で分かっています。沖縄県が実施した県民意識調査では「観光が発展すると生活も豊かになるか?」という問いに対して「そう思わない」と答えた人の割合は「そう思う」と答えた人を上回っています(「沖縄タイムス+プラス」2018年7月24日)。当然ながら、観光産業で働く人たちの就業状況は厳しく、沖縄県の労働組合総連合が行ったアンケートでは、回答者の6割が「平均給与20万円以下」と回答しています。
地域への経済的恩恵は少なく、住民や労働者の負担だけが増えています。観光庁と県は「オーバーツーリズム」という言葉の使用を避けていますが、実情はそれそのものです(「琉球新報」2019年8月26日)。この貧弱な経済基盤と収益構造を変えない限り、沖縄の観光業は、地域振興どころか、地域経済の破壊に繋がりかねないのです。
国からの補助金も有効活用できていない
この構造は、沖縄の補助金運用による経済活動とも似ています。人口が全国25位の沖縄県には、人口一人あたり全国1位の国庫支出金(沖縄振興一括交付金を含む)が流れ込んでいますが(沖縄県「沖縄県と他府県の国からの財政移転の比較」)、それらを運用して行われる公共工事の半分は本土企業が受注しています(「琉球新報」2019年9月29日)。
また、観光産業に次ぐ中核産業と位置付けられ、補助金を使って積極的な県外企業の誘致を行った情報通信業(IT産業)の実態は、ソフトウエア開発の下請けやコールセンター業務であり、労働環境が問題となった時期もありました(「沖縄タイムス+プラス」2015年1月14日)。
これまでの四半世紀で、沖縄関係予算として累計8兆円近くの補助金が流れ込んでいますが、依然として一人あたり県民所得は全国最下位のままです(「沖縄タイムス+プラス」2019年12月2日)。
ここでも沖縄のザル経済の状況が分かります。ボロボロの土壌(経済基盤)であるかぎり、いくらそこに水や肥料(観光収入や補助金)を与えても種が育たないのと同じです。