消去法的に成立したスペインのサンチェス政権

1999年のユーロ導入以降、外資の旺盛な流入を受けてスペインは好景気を謳歌した。その副作用として生じた不動産バブルが崩壊し、2010年代前半は深刻な不景気にあえいだ。この間、スペイン国民は壮絶な財政緊縮や最悪期には25%を超える高失業に耐え、2010年代後半に入ると経済は輸出主導の高成長を取り戻すことに成功した。

このスペインの復活劇を率いたのは、穏健右派の国民党(PP)を率いたラホイ前首相であった。本来なら称賛されるべき前首相だったが、任期後半にかけて独立志向が強いカタルーニャ州に対して高圧的な政策を採ったことや、自身を含むPP幹部の汚職疑惑が報じられたことを受けて、彼は国民の支持を失っていった。

PPの退潮は、急進右派であるVOXの躍進にもつながった。PPの最保守勢力がスピンオフして設立した同党は欧州懐疑主義の立場に立つ極右政党で、先の11月の総選挙で議席を倍増させ、第三勢力にまで台頭した。急進左派政党であるポデモスの対極をなす政党といえるが、ポデモス以上に危険な主張も目立つ。

有権者のPPへの失望はVOXに対する期待につながった一方で、右派そのものの地盤沈下も進んだ。その結果、穏健左派であるPSOEが相対的に浮かび上がったというのが、スペイン政治の実情である。神の手により消去法的に成立したともいえるサンチェス政権であるが、その最大のリスクは連立パートナーであるポデモスそのものだ。

同じ色でも交わらない穏健と急進

ここで話をイタリアに転じてみたい。19年9月、スペインに先んじて穏健政党と急進政党による左派連合がイタリアで成立した。急進左派政党である五つ星運動が、自らと袂を分けた急進右派政党である同盟に対する共闘を各党に呼びかけ、中道左派政党である民主党がこれに合流、その結果、左派連合による新政権が成立した。

引き続き穏健派として知られるジュゼッペ・コンテ氏が首相を務めているが、このイタリア版左派連合には早くもほころびが見えている。有権者に対するバラマキを極端に重視する五つ星運動と、現実的な政権運営を目指す民主党は、同じ赤色でも、結局のところ水と油であったということだろう。早ければ今春にも政権は崩壊するという観測すらある。

同様のことがスペインでも起きる可能性は高いと考えられる。現実寄りに修正されてきたとはいえ、ポデモスの主張はまだ過激といえる。保守と革新という色のちがいがあるとはいえ、その主張が近く一種の影法師ともいえる極右のVOXが台頭していることも、独自色を出したいポデモスが焦燥感を強め、PSOEに無理難題を突き付けるはずだ。

それが右派であれ左派であれ、急進派の主張が一定の民意を反映したものであることはまちがいない。とはいえ、そうした主張は現実味を欠く無責任なものが多く、かんたんに実現するようなものでもない。確かに、社会を安定させるうえで分配は大切であるが、身の丈以上のバラマキを行えば成長が失われるだけであり、持続可能性などない。