企業が転職回数の条件を厳しくした背景

企業が転職回数や年齢の条件を設定することは以前からあったのかもしれないが、このように厳格化、表面化してきたのはここ10年くらいだろうか。年齢制限を求人票に載せることは雇用対策法により禁じられているが、転職回数に関しては「2回まで」「1回まで」とハッキリ書いてある求人票を見かけることがある。

転職回数や年齢の条件が厳しくなってきた背景には、昨今の転職ブームの影響が考えられる。実際、ここ数年で転職者数および転職者比率は上昇し続けている。転職者比率とは一定の期間内での労働者全体に占める転職者の割合のことで、転職者数を総労働者数で割って100をかけた計算式で求められる。

総務省統計局の「労働力調査」によると、リーマン・ショックと東北大震災のダブルショックで日本経済が大きく落ち込んだ2011年では転職者の数は284万人、転職者比率は4.5%である。2018年では転職者数が329万人、転職者比率は4.9%。実に20人に1人が転職する時代になっている。

厚生労働省による2015年の「転職者実態調査」では転職回数の平均は2.8回。もっともこれはその年に転職を経験した人に聞いた転職回数で、一度も転職したことがない人、それ以前に転職を経験した人の回答は含まれていないので、全体の平均ではない。が、その年に転職した人のなかですでに3回近く転職を経験しているというのは、やはり人材の流動性が高くなっているといえるだろう。

人材の流動化で逆説的な現象が起こっている

人材紹介業界が転職することをあおり、これだけ人材が流動的になると、逆説的ではあるが、今度は企業側が「辞めない人材」「転職ブームに浮かれないような堅実な人材」が欲しくなってくるのではないだろうか。

また、中途採用が多くなると、転職回数が多い人を雇用した際にマッチングがうまくいかなかったケースも、当然ながら増えてくる。そういうことが1度でもあると「やっぱり転職回数が多いヤツはダメだな。今後はやめよう」という偏見ができてしまう。たとえ転職経験が多い人が何人もその会社で実績を上げていたとしても、失敗例や悪い例のほうが印象に強く残ってしまうものである。

書類選考がコンピュータによっておこなわれるようになったことも、転職回数や年齢の条件が厳しくなっている背景にあるだろう。今は転職ブームゆえ、人気企業・有名企業は転職希望者が殺到してしまう。そのため書類選考の際になんらかの条件でフィルターにかけなくてはならない。その条件のなかに転職回数と年齢が入ってくるというわけだ。