どうやらこれが韓国の芸能事務所が真似ているジャニーズ流のようだ。韓国の中堅事務所社長が言うのもジャニーズ方式と同じようである。
「アイドルやアーティストになるためには、芸能事務所のオーディションで練習生となり、数年間のレッスンを受け、デビューするのが一般的です。この練習生のレッスン費用から生活費まで、事務所がほぼ全額を負担するのです」(韓国の中堅事務所社長)
ジャニー喜多川社長(故人)も、アイドルの卵の男の子を見つけ出してきて、自分の家に住まわせ面倒を見ることで有名だった。
彼らと一緒に寝起きするという喜多川の狙いの中には、彼自身の“楽しみ”もあったようだがここでは置いておく。
デビューにかけた10億円は当人の「借金」扱いになる
朝起きてから寝るまで、レッスン漬けになる。事務所側もその間はカネにならないから、持ち出しである。
「デビューまでに一グループあたり、十~十五億円かける事務所もあります。それでも売れる確率はほんの僅か。だから投資した金額を回収するために、最初は給料を払えない。売れても事務所の取り分が多くなるように契約する。契約期間も四~五年だと、売れても赤字で終わってしまう可能性が高い」(同)
だが、10億も20億もかけるということは、一度売れれば、途方もなくおいしいということである。だが事務所側はそんなことはおくびにも出さない。
だからデビューして売れるまでは、そのタレントの「借金」になるのである。したがって、売れるまでは無給で働き、給与をもらえる立場になっても、「3:7」とか「4:6」とか、事務所側が多く取れる不平等な契約が多くなる。
吉本興業が闇営業問題で大騒ぎになったとき、売れない吉本のお笑い芸人が、ギャラの取り分は吉本「9」の芸人「1」だとバラしたことがあった。それに比べればまだましかもしれない。
その上、途中でタレント側が契約解除すると、違約金を払わなければいけないケースがあるという。まさに「奴隷契約」である。
日本でも売れに売れた東方神起は、所属事務所と契約で揉め、グループ分裂にまで追い込まれたが、この時は、13年という長期契約が問題になった。
09年に公正取引委員会がこうした問題にメスを入れ、契約期間は7年を超えてはならない、収入の配分も少しは改善されたというが、「しかし依然として芸能事務所側が有利で、不公正な奴隷契約が行われているのも事実です」(弁護士のチェ・ジンニョン)。
タレントを脅し、芸能界を牛耳る“ドン”の存在
だが、日本では、ジャニーズ事務所が、事務所を出て行った元SMAPの3人に対して、テレビ局に彼らを出さないよう圧力をかけたという疑惑があると、公取が注意したのは、つい最近のことである。
事務所を離れようとしたタレントに脅しをかけるなどは、日常茶飯である。日本の方がよほど遅れている。
その1番の理由は、日本の芸能界を牛耳るドンたちの存在である。中でも、バーニング事務所の周防郁雄の威光は、K-POPにまで及んでいるといわれる。
ここに『紙の爆弾』という月刊誌がある。あまりお行儀のよくない雑誌ではあるが、『噂の真相』休刊の後、暴露雑誌として存在感を増している。
これの2011年3月号に、「『K-POP利権』を巡り芸能界の大物たちが大衝突」という特集がある。要約すると、2010年の暮れの第52回レコード大賞の最優秀新人賞は、下馬評ではK-POPの「少女時代」が断然といわれていたのに、ふたを開けるとほとんど無名の「スマイレージ」になった。
その裏は、TBSの大物プロデューサーと周防が組んで、ひっくり返したというのだ。
2015年のレコード大賞でも、大賞を予想外の「三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE」の『Unfair World』が獲得した。その後、周防社長が、三代目JSBが所属する「株式会社LDH」に対して1億円を請求していたことを、『週刊文春』がすっぱ抜いている。
大賞を取らせてやった礼をよこせということだったのだろうか。
韓流全盛の4グループが紅白に出なかった謎
紅白と並んで年末の人気番組だったレコ大が、見る影もなく落ちぶれていったのは、ファンを蔑ろにして、賞をビジネスにする利権屋たちが跋扈したためである。
それはNHKの紅白も同様だった。K-POPの東方神起、KARA、BIG BANG、少女時代旋風が吹き荒れた2010年の紅白は、この4グループが全員初出場するのではと思われていた。
だが、『紙の爆弾』(2012年12月号)によれば、周防社長が「日本の歌手を優先するべきだ」と主張して、これだけ人気のあるグループをNHKは出さなかったというのである(たしかに2010年の出場歌手を見てもK-POPは一人も出ていない)。
K-POPも含めて韓国の歌手たちは、日本で売れても、芸能界のドンたちの意向や日韓情勢がどうなるかによって、流れの中の笹の小舟のように翻弄され、中には、消えていく者もいる。
だが、韓国のアーティストたちは、日本のアイドルグループのように、国内だけに目を向けて流れの中で浮き沈みしてはいない。男性7人組のヒップホップグループ・BTS(防弾少年団)は世界的な人気を誇り、今年の4月に出したアルバムが、アメリカのビルボード100チャートで3回目の第1位を獲得している。