横綱は一日3番相撲を取る

――双葉山関といえば「後の先(先に仕掛けてきた相手を制圧すること)」ですね。

双葉山関は自分の立ち合いをつくり上げたんです。強い力士ほど先に攻めて相撲を優位にしたいものですけど、後の先のほうは安定感がある。だから69連勝できた。

――白鵬関の「後の先」への模索は有名ですよね。

横綱に上がって4年ほどたったときでしょうか。双葉山関へのあこがれもありました。でも後の先の心構えで負けたとき、「受けてる場合じゃないな」と思った。やはり優勝しなければいけませんから、やっても2回か3回。15日間、全取組でそれができた双葉山関は、やっぱり富士山2つ分なんですよ。双葉山関や大鵬さんの「心・技・体」は突出していたと思います。でも、わたしくらいだと「心・技・体」は日々変化する。そこが難しい。戦うときに体中に漲るアドレナリンというホルモン。あれは限りがあるんですよ。

――限りがあるんですか?

今年の初場所、手術した膝が腫れあがって14日目から休場しました。あれはアドレナリンが切れたから。アドレナリンが漲っていれば、痛みを感じないんです。そういう感覚、20年近く相撲を取って初めてわかりました。栄養を摂って休めば補充できるけど、人によって出せる量が違うみたいです。

――横綱の場合、取組だけではなく、土俵入りなどでもアドレナリンを使う苛酷さがありますね。

そうそう。あそこでアドレナリンをかなり使うの(笑)。大鵬さんは「土俵入りは相撲2番」と言っています。そのくらいたいへん。横綱は一日3番相撲を取る。そういう気持ちですね。

――さらに未来の話です。相撲部屋を銀座につくりたいと?

あれは正式なコメントじゃないんですよ(笑)。どこに部屋を開くかという話が出て、「フランスならパリ、アメリカならニューヨークだよね」って流れから、「じゃあ、日本なら銀座かな」って言っただけ。記者との会話が盛りあがって、「稽古場をガラス張りにして、外国人観光客にアピールすると面白い」と。個人的には、銀座はお酒を飲むところだと思ってます(笑)。

――ありがとうございました。

(インタビュー・構成=須藤靖貴 撮影=小原孝博 写真=PIXTA)
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