次にどんな言葉が飛び出すのかと期待を高める無言の時間。キーワードの後の沈黙は、聴衆の頭にイメージが浮かぶには、それなりの時間がかかることを知っているからだ。

「シーンとした状態を嫌って『え~』と繋いでしまうと沈黙のドラマチックな効果は発揮されません」

プレゼンの最大の目的は説得。言葉数が多ければ伝わるわけではない。必要なのはメリハリ、緩急だ。

沈黙は営業トークにも使える

沈黙は営業トークにも使える。売り場で販売員に商品のメリットを一方的に説明されても、買う気が全然起きなかったという経験は誰にでもあるはず。

「買う側としては、頭の中を整理する時間が欲しいわけです。販売員は説得しようといろいろな理由を挙げるよりも、必要なことを伝えた後は、静かに黙って、内容が相手の頭と心に徐々に浸透するのを待ったほうが説得しやすいのです。

一方的にまくしたてる営業マンが多いのは、沈黙が生まれた瞬間に断り文句を言われたり、電話を切られたりすることを恐れているからです」

同じことは一対一の会話にもいえる。言葉に重きが置かれている現代では、沈黙に居心地悪さを感じる人は多い。結果、余計な言葉を発しすぎて、コミュニケーションエラーが起こっているのではないか、と谷原弁護士は指摘する。

「会話が途切れる=人間関係も途切れるという強迫観念が強いのかもしれません」

口は災いのもと。厄災を招かないまでも、フレンドリーな印象をアピールしたかっただけなのに、馴れ馴れしいと受け取られたり、おしゃべり好きな口の軽い人と思われたりすることもある。

「新たな人間関係を築くには会話しかありませんから、初対面のときは努力して話す必要があります。しかし、なにか喋り続けていないと落ち着かない……という心理でいると、言わなくてもいいことや、言ってはいけないことまで口にしかねません。特に交渉の場などでは、余計なことを口にしたり不利なことを口走り、失敗を招くことにもなります」

つまり、沈黙に耐えられないから話すというのは、人間関係を築くための会話ではなく、自分の不安を解消するための会話でしかないわけだ。

「要は沈黙をどう捉えるか。沈黙は必要以上に怖がらなくていいし、沈黙をプラスの方向で使うという考え方もあるわけです」

例えば、相手が早口で畳み掛けるように話す場合。好意的に喋ろうとすると、私たちは無意識に相手のテンポに合わせてしまう習性がある。しかし、意識して、少し間を置くことで、あわてず進めましょうと会話のテンポをコントロールすることもできる。また、意見が食い違い、売り言葉に買い言葉でヒートアップしそうなときは、少し黙ることにより、怒りを沈静化することもできる。