五感を総動員して、相手の人間性を見極める

人と会うことが経営者の仕事のかなりの部分を占めています。人の本質を見抜けないと経営者は務まりません。自らを振り返ると失敗だらけですが、そのなかから学んだことがいくつもあります。

カインズ社長 高家正行氏

人と会うといっても、取引先と会う場合は相手の信用を見るというより、私の信用をアピールすることのほうを優先します。ですから、以下では社内の人や、会社に新しく仲間として迎え入れる人と会うときに、どういう視点を持っているかということをお話ししましょう。

いまの私の立場では、採用面接でも会社の幹部クラス(部長職以上)になってもらいたい人とお会いします。私が見るのは、その人が部下として長く一緒に働いてもらいたい人かどうか、という一点です。すると、スキルや能力だけでなく、もう少し突っ込んでその人の人柄まで見抜けなければなりません。

そのために大事なのが、最初の5分間です。本題に入ってからだと、当然ですがビジネスの話題に集中します。その前に、お天気のようなたわいもない雑談から始め、その間に身だしなみ、言葉遣い、仕草、醸し出す雰囲気などを、それこそ五感を総動員して感じ取り、相手の方の人間性を見極めるようにしています。

最初の印象と仕事上の実績が不自然に乖離していないか

もっとも、自信たっぷりに話をする人は仕事ができるとか、身につけているもののセンスがいいと円満に組織をまとめてくれるとか、誰にも共通するパターンがあるというわけではありません。一緒に長く働いてほしい人かどうかは、一見してわかるような仕草や外見とは別のところで判断しています。これは経験に裏打ちされた直感のようなもの、というほかありません。

ただ、ひとつだけ明言できる基準があります。それは最初に受けた印象と、その後、「本題」での対話によって得られたその人の仕事上の実績とが、不自然に乖離していないかということです。通常、雑談の5分間で人柄を感じ取ったあとでビジネスに関する話題に移りますが、ここで私は、かなり細かい突っ込んだ話を聞くことにしています。

態度が堂々として口調にも自信があふれている人は、たいてい「前職でこれだけ売り上げを伸ばしました」「このプロジェクトを成功させました」とアピールします。しかし、会社やチームの業績は1人で成し遂げられるものではありません。私が知りたいのは、その成果にその人がどれだけ主体的に関わってきたかということです。そのため、ここではいろいろな方向から「ボール」を投げて、事実関係を明確に把握するように努めるのです。