パソコンの起動に5分かかかる

「45分の授業で、パソコンの起動に5分かかかるだけで予定は狂うし、誰か1人でもフリーズしようものなら、その対応に追われて授業が停滞してしまう。現場の教師は操作を学ぶ時間も少ないため、とにかく操作が簡単で、トラブルのない機器を求めています」

そして、コストも課題だ。デジタル機器の導入には、購入費、電源確保やWi-Fi環境といったインフラの整備などで、とにかくお金がかかる。限られた予算内で、安価な製品を選び、故障や不具合に見舞われた例は、冒頭のケースに限らない。

「逆に成功する要因としては、デジタルと紙をブレンドして両方使いこなしていること。スマホやタブレットには、目の前にあると触らずにはいられない『惹きつける力』があり、紙のドリルではやる気の起きない子も、熱中してしまう側面があります。一方でスクロールしないと必要な情報にたどりつけないのが弱点です。それに対し、広げれば情報を俯瞰できる紙は、一覧性に優れているという長所がある。どちらか一方に偏らず、適材適所でデジタルと紙を使い分けられる現場は、授業もうまくいっている印象があります」(赤堀氏)

ただし、デジタル導入が劇的な変革をもたらすケースも少なくない。赤堀氏がかつてスリランカの教育推進に携わったときのこと。デジタル機器の導入検討で現地に視察に向かうと、学校は黒板も足りず、1日に6時間も停電するような地域だった。赤堀氏は「こんな環境にITを導入しても意味はない。まずはトイレや黒板を入れてからだ」と反対した。

「しかし決定事項ということで、教師用に1台だけパソコンを入れることになりました。そして半年後に再び訪れたところ、同校はIT導入した先進的な学校として地域の誇りとなっていたんです。校内はきれいに清掃され、非常用バッテリーが地域住民の寄付金で購入され、教師はパソコンを使って完璧な授業とプレゼンを行うようになっていた。先端技術の導入は人に未来への希望を与えて、学びの意欲を引き出すことを教わりました」

配布されたタブレットを隠して鍵をかけ、進歩を否定してしまっては、成功は望めないのである。

小山 満(こやま・みつる)
野村総合研究所 ICT・メディア・サービス産業コンサルティング部コンサルタント
専門分野は、情報・通信分野の分析調査・ビジョン策定。
 

伊藤陽平(いとう・ようへい)
新宿区議会議員
1987年生まれ。IT企業役員を経て、2015年、新宿区議会議員選挙で初当選を果たす。
 
(撮影=大崎えりや)
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