教師の存在は不要になるのか

「AIが最適化した学習を提供することで、教師の存在は不要になるのかといえば、そんなことはないでしょう。EdTechによって、教師はその役割が『コーチ』へと変わっていくと思います。勉強や仕事の効率化はAIが担えても、『なぜ勉強が必要なのか』『勉強の面白いところ』を一人ひとりに伝えたり、モチベーションを管理するのは難しい。効率化によって捻出した時間を、生徒とのコミュニケーションに使っていくのではないでしょうか」

小山氏は「オンライン学習ツールの普及で選択肢が増え、受動的だった学習が能動的なものへと方向転換するはず」と見る。

「そして社会的には、『学歴』から『学習歴』が重視される気がします。今までは企業が学生を評価する際、どのような学習をしてきたのかがわからないため、大学名で判断してました。それが近年、リポートやサークル活動、教師のコメントなど、学びに関わるあらゆる記録をデジタル化する『eポートフォリオ』が教育業界で推進されています。学習過程が明らかになることで、評価軸も変わっていくはずです」

▼[AIによる効率化]黒板に板書して授業するのがムダな理由

「小中学校の45分間授業で、本当に集中している時間はわずか5分でした」

そう語るのは、AI型タブレット教材「キュビナ」を開発した、コンパス代表の神野元基氏だ。神野氏はシリコンバレーで起業後、「子供たちに未来のことを伝えたい」と帰国して学習塾を開校した。しかし生徒たちは勉強に追われ、未来について教える時間もない。そこで「授業中、自分にとって本当に意味のある時間はどれほどか」のアンケートを実施し、分析したところ、冒頭の数値に行きついた。

「それ以外の時間はといえば、生徒はわかりきった話を聞いているか、あるいは理解不能な話を聞いているかのどちらかでした。1人の先生が35人前後の生徒を教えようとすれば、どうしても注意喚起の時間や、板書する時間など無駄な時間が発生してしまう」(神野氏)

集団学習の限界を感じ、もっと効率的な学習で未来について伝える時間をつくりたいと、開発したのが「キュビナ」だった。タブレット上で、生徒がどのくらい正解しているか、どういう順番で解いているか、解説を何秒読んでいるかなどのデータを集め、一人ひとりの習熟度をAIが解析。弱点とするポイントを把握し、さらに能力を伸ばすための難易度を調整しながら、各自に最適な問題を出題していくという、「AI先生」である。

学習の効率アップは歴然だった。教材を導入後、塾では従来の中学校数学1学年分の授業時間が、7分の1に短縮されて修了。生徒の多くは、中1で中3数学まで終わったという。