講義から生まれた本が大ヒット

麹町アカデミアの講座は自分たちのために開いていると堂々と公言しているわけだが、一方で、「講師の方に、ここでの講義を通じて何かを得てもらいたい」と事務局の山仲喜美子さんは語る。

講師として招く人たちは、いわゆるビッグネームではない人が多い。世の中的には全くの無名という場合でも、「この人は面白い!」と思ったら招くことをためらわない。そんな1人が今年の5月に『絵を見る技術』を上梓した美術史研究家の秋田麻早子さんだ。

10年くらい前に秋田さんの美術に関するブログを発見し、その圧倒的な面白さに度肝を抜かれた秋山さんは本人に会いたくて「ネットでナンパ」したそうだ。以来交流を重ね、2015年に麹町アカデミアで「絵を見る技術を学ぼう」というテーマで講座を開催。たちまち人気講座となり、編集者の目に留まり出版に至った。発売以降、毎月重版がかかり、3万部に迫るベストセラーとなっている。

写真提供=麹町アカデミア
ブログで知り合った美術史研究家に講師を依頼。ここからベストセラーが生まれた

麹町アカデミアの講義から生まれた本はほかにもあります、という山仲さん。冒頭でご紹介した防衛相元分析官の上田篤盛氏の新刊も、麹町アカデミアで上田氏の講演を聴いた編集者が企画したものだ。こうした出会いがうまれやすいのはなぜなのか? その理由を聞くと、山仲さんはこう答えた。

「ここでの講義内容は、完全にオリジナルだからだと思います」

たくさんの講演に引っ張りだこの人気講師は、確かに面白い話はできるかもしれないが往々にしてそのテーマは使いまわしになりがちだ。だが、新たに発見してアプローチした人たちは麹町アカデミアの趣旨を理解して、時間をかけて当日の講演内容を練り上げてくれる。他では絶対に聞けない話が生まれるわけがここにある。

「盛り上げる」ことが目的ではない

講義当日に向けての準備を講師と二人三脚で行うのは、事務局の山仲さんの仕事だ。ほとんどの場合、三カ月程度の時間をかけて内容を詰めていくという。参加申込者の属性なども、順次、講師に伝える。

「テーマに対してまったく素人なのか、あるいは、専門家が多いのかどうか。当日の顔ぶれは内容を決めていく上で大切な要素になります」

ネット上で参加者の属性をサーチしたり、時には事前アンケートをとったりすることもある。そこまでやるのは、すべて、「講師の先生に安心してお話しいただくため」だ。

講師のストーカー的な人がきてないか、業界の競争相手や知り合いがきてないか、そして参加者のレベルが想定と合っているか、などにも気を配る。講演者が気持ちよく話せる場をつくれば、受講者にも楽しんでもらえるという確信がある。

「盛り上げたいとは思っていないんです」

「すごいなあ」と感動させたいわけでもない。時によっては「あれ、思ってたのと違ったな」と思う参加者もいるかもしれない。それでも、「うちに来る人たちは、どんなときでも何らかの面白さを見つけることができる人たちだと信じています」と秋山さんが言えば、「そんな人ばっかりが集まってくるんです」と山仲さんがつけ加えた。