『週刊少年ジャンプ』に40年間無休で連載していたマンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。全200巻という前人未踏の記録の裏側を、著書『秋本治の仕事術』(集英社)にまとめたばかりの秋本氏は「漫画のネタに困ることはあり得ない」と話す。なぜなのか——。(第2回)

出し惜しみする余裕などなかった

撮影=小野田 陽一
漫画家の秋本治氏

永く続く漫画の条件? それは正直よくわからないです。僕自身、40年間も連載が続くとは考えていませんでしたから。

漫画の世界は本当にシビアです。安定した人気があるといわれている作品でも、読者に飽きられたら、いつ打ち切りになってもおかしくない。まして週刊の少年誌は毎週のように新しい人が出てきます。切磋琢磨していないと、連載を続けたくても続けられなくなる。そういう覚悟を持って『こち亀』を連載していました。

毎回が全力勝負で、ネタを出し惜しみする余裕はなかったですね。おもしろいネタがあれば、旬のうちに描くことが基本です。「人情話が続くから間隔を空ける」というような調整は多少行いますが、せいぜいその回を1、2カ月先延ばしする程度。夏になったら「秋はどうするかねえ」、秋がきたら「年末は正月進行で締め切りが早いから、そろそろお正月のネタを考えないとねえ」という感じでいつも目先のことばかり考えてきました。その積み重ねで、気がつくと長期連載になっていただけです。

後から振り返って永く続いた理由を強いて挙げるとしたら、僕自身が楽しんでいたことでしょうか。先ほども話しましたが、連載35周年を記念して、通常の連載の他に漫画13誌に『こち亀』の読み切りを同時掲載する企画に挑戦したことがあります。殺人的なスケジュールで、本当に吐き気がするほど大変でした。