一流ホテルの宿泊は「エグゼクティブフロア一択」であるワケ
私が40代を迎えたばかりの頃の話です。日本を代表する大企業の社長と一緒に出張した際に、「鈴木くん、一流ホテルに泊まるのであれば、必ずエグゼクティブフロアに泊まりなさい」というアドバイスを受けたことがあります。
以前に勤務していた会社では、一流ホテルの安めの部屋をブッキングするという出張規程がありました。ファームのブランドがあるのでそれなりの有名なホテルに宿泊するべきだが、ぜいたくは許さないという考え方です。そのため実は、40歳になって独立するまで私はこのような世界があることを知りませんでした。
「もう少しお金をたくさん払ってワンランク上のエグゼクティブフロアに泊まる」と何が起きるかというと、そうすることでホテルがサードプレイスになるのです。
一般的にホテルの部屋というものはそれなりに機能的にできていて、仕事から戻ると小さなデスクにパソコンをのせ、Wi‐Fiでネットにつないで仕事をすることができます。でも、なんとなく心からはくつろげない。だから合間合間で外出し、外の空気を吸いたくなります。出張中のサラリーマンの多くが夜の繁華街に繰り出すのはそのためでしょう。
ところが、一流ホテルのエグゼクティブフロアの宿泊客は、エグゼクティブラウンジを利用できるようになります。このラウンジは自宅のようにくつろげる空間で、落ち着いた照明の中、ソファに座ってパソコンに向かうことができ、無料のコーヒーやクッキーも用意されています。おまけにハッピーアワーになればアルコールを楽しむことができるのです。
スタバ現象の背景に「最上級のおもてなし」
そうやってエグゼクティブフロアに泊まり、エグゼクティブラウンジに出入りするようになると、ホテルにいる時間が長くなってきます。あまりに居心地がいいので、わざわざ繁華街に出かけるのがおっくうになってしまうほどです。
そして一流ホテルチェーンのエグゼクティブラウンジの設計は、国内においても海外においても、同じコンセプトでありながらすべて異なります。全部違うのに、どこも同じように居心地がいい。これはまさしくスタバと共通する特徴です。
そうした共通点から、客がスタバに飽きない現象の源流は、どうやら一流ホテルの最上級のおもてなしにあるのではないかと気づかされました。自宅のようにくつろげる場所は、世界中にいくつあっても飽きはこないものです。
スタバはそのコンセプトを崩さずに数を増やしていきました。その結果、客にとっての上質なサードプレイスが増え、いつでもどこでもそこに長居する現象が起きているわけです。店舗数がこれだけ増えても私たちがスタバに飽きない、外食産業の常識に反する不思議な現象の理由はここにあるのです。