すべてのお店のデザインが異なる

「イタリアのエスプレッソカフェのような体験をアメリカに根付かせたい」と語っていたのは、スタバの実質的な創業者であるハワード・シュルツです。しかし、このときコンサルタントの間で議論になったのは、「それが根付くと時間がゆっくり過ぎることに顧客が慣れ、居心地の良さを感じるようになるのではないのか?」ということ。これは当時の私たちにとって逆転の発想でした。

この現象は後に、「サードプレイス」という言葉で表現されるようになります。つまり、自分の家や職場(ないしは学校)がそれぞれ1つめ、2つめの居場所だとしたら、スタバは3つめの居場所を提供しているという考え方です。ホームとアウェーでいえば、スタバはホームであるため、注文に多少時間がかかっても許せてしまうという特別な地位が与えられているのです。

しかし、これだけ数が増えてもスタバがまったく飽きられないのはなぜでしょうか。私が注目しているもう1つの点は、店舗デザインの秀逸さです。スタバの店舗には、他のチェーン店、たとえばドトールやマクドナルドとはまったく違う特徴があります。それはすべてのお店のデザインが異なることです。

「ロマンス予算」を設けた異色のチェーン経営

スターバックス コーヒー 川越鐘つき通り店

よくスタバを利用する人なら、頭の中に店舗のイメージを浮かべることができるでしょう。コンセプトはすべて同じでも、面白いことに設計の細部が店舗によって違うのです。これは本来、チェーン店の経営としては非効率的な手法です。しかし、スタバはそれをあえてやっているところに特徴があります。

スタバの店舗デザインは、外注せず社内のデザイン部隊が担当しているそうです。そして店舗の開発予算の中には、なんと「ロマンス予算」と呼ばれる予算が存在し、それぞれの店舗の「デザインの遊び」にお金をかけているのだといいます。

経営戦略の常識でいえばこれは、数百店舗を超えるような大手チェーンで取り入れるべきやり方ではありません。教科書通りなら、デザインや什器、設備などを同じにし、低予算でブランドイメージを統一する方法を採ります。一つひとつの店舗がすべて異なるデザインで、なおかつ、居心地が良くて長居できるお店作りというのは、チェーン経営としてあまりにも異色です。

スタバはなぜ、そのような方法を取り入れたのでしょうか。実は飲食チェーンとは別の業態で、同じような手法で成功しているサードプレイスがあります。それは一流ホテルのエグゼクティブラウンジです。スタバがどこまでこの業態を意識したかはわかりませんが、サードプレイスとしてはスタバよりもはるかに長い歴史を持っています。