そうなると、曲と演奏者のあいだに、ある種の相互援助の関係が成立しはじめます。たとえば、演奏者個人を知らなくても、「ドビュッシーを聴きたいね」「ベートーヴェンのコンサートか。じゃあ、行こうかな」というふうに、曲目から興味をもつ聴衆が現れ、彼らがデビューしたての若手ソリストを初めて認知したり、あるいはベテランのソリストのすごさにあらためて感動したり、といったことが生じるのです。
もちろん、その逆もまたしかりで、「あのベテランソリストの解釈したラフマニノフは迫力があったな」などなど、そもそも有名な曲は、さらに不動の地位を獲得してゆくのです。
どうやってマリンバをメジャーにするか
では、そういう構造が存在するなかで、いまだソロ楽器としての地位がまったく確立されていない楽器、たとえばマリンバのような楽器は、いったい何を演奏すればいいのでしょうか?
一つには、ピアノやバイオリンなど、他の楽器向けに書かれた有名なソロ曲を、マリンバ用に編曲する、という方法があります。私自身、編曲者としてたくさんの曲を書き直して、ステージで演奏してきました。
もう一つの方法は、まったく新しい曲を書いて演奏する、というものです。現在でも状況はあまり変わらないのですが、マリンバ向けに存在するごく少数のレパートリーはマリンバ奏者自身が書いたものばかりで、率直にいって曲として今ひとつのものばかりでした。
私は、機会を見つけては、一流のソリストたちと次々にデュオを組んで演奏をするという道を選択しました。第三の道を選んだわけです。
チャイコフスキーコンクールで入賞した一流の女性バイオリニストや、当時のフランスで最も注目されていた若手チェリスト、あるいはリストの直系の孫弟子にあたるピアニストなど、そうそうたるメンバーと次から次へとデュオを組み、マリンバと共演してもらいました。
一流のソリストとの共演が成長につながった
マリンバをメジャーな楽器にすることが主眼ではありましたが、これらの経験は音楽家としての私個人にとっても、じつにメリットの多いものでした。彼らと演奏するたびに、私自身の演奏技術が上がっていくことを実感できるのです。
一流のソリストは、幼いころからソリストとして独り立ちするべく、オーケストラの団員を目指すような一般の音楽家とはまったく違った、特殊な音楽教育を受けています。ステージ上での立ち居ふるまいや曲の解釈の仕方など、徹底的な英才教育を受けている彼らは、一般の演奏家とは何から何まで異なるのです。