※本稿は、フランソワ・デュボワ『作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」」』(講談社・ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

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「音がまろやかで、倍音が豊かなマリンバに賭けてみることにしたのです」(※写真はイメージです)

マリンバという楽器との出会い

マリンバは木製の鍵盤楽器で、マレットとよばれる専用のばちで叩いて演奏します。木琴の一種といえば、想像しやすいでしょうか。

マリンバとの出会いは、私が10代なかばのころでした。パリの国立コンセルヴァトワールで学びはじめる前に入学した地元・ヌヴェールの地方コンセルヴァトワールの打楽器科で、こなすべきレパートリー楽器の一つとして弾きはじめたのです。

打楽器奏者は一般的に、打楽器とよばれるものなら何でもこなせるように訓練されます。練習すべき楽器の数が膨大なので、一つの楽器の練習にかけられる時間は他の楽器奏者に比べて極端に少ないのが特徴です。

学生のあいだはとにかく大変ですが、いったんプロになってしまえば、さまざまな楽器が演奏できる便利な奏者として重宝されるメリットもあります。一方で、器用貧乏というのか、ソリストとして飛び抜けて素晴らしいと評価されるクラシック音楽の打楽器奏者は、残念ながらさほど多くは存在しないのが実情です。

クラシック音楽のコンサートをご覧になったことがある人はよくご存じのように、オーケストラの打楽器奏者はたいてい後部に広く陣取っています。ティンパニ、スネアドラム、バスドラム、銅鑼どら、マリンバ、ヴィブラフォン、コンガ、シンバル、トライアングル、チャイム、マラカス、タンバリン、ギロ……など、数多くの打楽器を、あたかも見本市のようにずらずらと並べています。

そのたくさんの楽器たちを、曲目や小節ごとに素早く弾き替えていくのです。こうしてあらためて描写してみると、オーケストラの打楽器奏者は、音楽家というよりも職人に近いかもしれません。