※本稿は、フランソワ・デュボワ『作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」』(講談社・ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

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五線譜には横軸と縦軸によって音楽が記されている。横軸は時間軸に沿って流れていくもの、縦軸はある同一のタイミングで組み合わされて鳴らされる音のセットだ——(※写真はイメージです)

数学的素養を持つ音楽家は少なくない

音楽は、規則に縛られた特殊な芸術です。

絵画や彫刻などの他の芸術分野に比べ、やたらに制約やルールが多く、その点からも、数学の一種といっていいものです。あるエンジニアの友人から、「数学者は音楽に数学を見出し、音楽家は数学に音楽を見出す」という面白い表現を耳にしたことがありますが、まさにそのとおりでしょう。

実際に、数学的素養をもつ理系人から音楽家になった人は少なくありません。私の先輩世代でいえば、ルーマニア生まれのギリシャ人でフランスで音楽活動をおこなったヤニス・クセナキスや、指揮者としても活躍したピエール・ブレーズら多くの作曲家たちが、建築学や数学を修めています。

「ハーモニー」を理論的に整理した人物

五線譜における音楽の横軸は、時間軸に沿って流れていくものです。一方、音楽の縦軸は、ある同一時点において、同時に組み合わさって鳴らされる音のセットです。

単一の音では実現できない音の響きを、複数の音の組み合わせで可能にするこの操作こそ、音楽における「かけ算」です。クラシック音楽におけるオーソドックスな「かけ算」には2種類あります。「対位法」と「和声法」です。時代的には「対位法」が先に登場したのですが、みなさんにより馴染なじみが深いと思われる「和声法」から話を始めることにしましょう。

和声法の「和声」とは、異なる音を同時に複数、発音することを指しています。より広義には、和音をはじめとするさまざまなルールや、前後の音とのつながり方などを学ぶ学問の総称を意味することもあります。

どの音どうしを組み合わせるときれいに響き、どうすると耳障りに響くのか——。それを理論的に整理したのが、「和音の父」とよばれるジャン=フィリップ・ラモーでした。ラモーは、バッハと同時代を生きた大作曲家にして音楽理論家で、当時、さまざまなかたちで点在していた音楽理論をまとめ上げることで、和声学の基礎を築きました。