和声学の伝統に沿うから「耳に残る」

大きな歴史の流れがわかった後でも、もう一つ疑問が残りますね。和声学の伝統が、ポップスやロックミュージックのなかで今なお生き残っているのはどうしてなのか? その理由には、音楽につきものの、ある特徴が関係しています。

フランソワ・デュボワ『作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」』(講談社・ブルーバックス)

それは、耳に残りやすい構成をしているから、なのです。あるいは、歌いやすいから、覚えやすいから、踊りやすいから、と言い換えてもかまいません。

これは、音楽のとても重要な側面であり、たとえ専門的な勉強をしていなくても、特別の素養がなくても、耳でコピーしてリズムやメロディ、歌詞を再現できる、覚えられるというのは、絵画や彫刻などの一定の訓練が必要な他の芸術とは大きく異なる特徴です。

ロックに関しては一概に歌いやすいとはいいにくい楽曲もありますが、大衆向けのポップスでは、その傾向がより顕著に出ています。かつてレディー・ガガがインタビューに応えて、「いい曲というのは、踊りやすくて、覚えやすいものを指すと考えているわ」と明言していました。音楽の特徴を的確にとらえた、ポップスの女王ならではの言葉だと思います。

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