※本稿は、フランソワ・デュボワ『楽器の科学 美しい音色を生み出す「構造」と「しくみ」』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。
美しい音楽を響かせるコンサートホールの実力
「音楽を聴く」という体験は、録音技術の登場によって大きく変貌しました。それ以前は、それがプロの演奏会であれ、仲間内の腕前の披露の場であれ、必ず演奏者の目の前でじかに耳を傾ける以外に「音楽を聴く」ことは不可能でした。
レコードからCD、そして配信サービスへと、再生の形こそ変化・多様化していますが、現在の私たちの音楽体験の多くは、「録音された演奏」を通じてのものになっています。
しかし、いやそれゆえにこそ、「生で音楽を聴く」機会は貴重かつ重要になっています。クラシックでもロックでもポピュラーミュージックでも、そしてプロかアマチュアかにかかわらず、演奏家たちが奏でる音楽を直接、耳にできるコンサートやライブで体感できる感動や興奮は、音楽の魅力そのものといっても過言ではないでしょう。
そのような場を提供してくれるのが、コンサートホールです。本書で紹介しているさまざまな楽器たちの個性あふれる音色を美しく、そして大きく響かせ、私たち聴衆を楽しませてくれる音響空間です。
楽器の性能を最高レベルで引き出すための空間=コンサートホールとは、どのような音響科学に基づいて設計・建設されるのでしょうか。
ひと口にコンサートホールといっても、その形状からサイズまで、じつにさまざまなものが存在します。上演される形態も、いわゆるオーケストラを配置したクラシックのコンサートから、オペラや舞踊、演劇に各種アーティストのライブまで、きわめて多彩です。
どんな規模のどんな音が鳴らされるのかによって、コンサートホールの音響特性もさまざまに変化しますが、本書では主として、「フルオーケストラから小編成の室内楽までのクラシックのコンサートをおこなう空間」を想定し、室内音響学に関する話を進めていきます。