非民主的でも優秀なリーダー、プーチン大統領
プーチン大統領による権威主義的な政権運営は確かに非民主的である。もっともそうした強いリーダーでないと、ロシアという複雑な国はまとまらないという事実もある。その広大な国土にはさまざまな民族が存在し、多くの国境紛争も抱えている。そういう非常に特異な国を治めることができるリーダーが民主的なプロセスで選ばれるとは限らない。
筆者は10月初旬、ロシアの首都モスクワを訪問し、複数の有識者とロシア経済に関する意見を交換した。主な関心は、ロシア景気の将来的な腰折れリスクになりかねない家計の債務問題に関する現地での評価を聞くことだった。しかしそうした中で図らずも浮かび上がった事実が、プーチン大統領に関する相反する2つの評価であった。
1つが、プーチン大統領は近年のロシアでは最もまともな指導者であるという評価だ。確かに旧ソ連崩壊(1991年12月)のトリガーを引いたゴルバチョフ元大統領、その後を継いだエリツィン元大統領の両リーダーは、ロシアの経済の再建に立て続けに失敗し、社会を長い混乱に陥らせてしまったきらいが否めない。
そうしたロシアの経済的・社会的混乱をはじめて鎮めたのがプーチン大統領であることは誰もが認めるところだ。プーチン大統領は権威主義的な政権運営に努める一方で、原油価格の上昇を追い風に好景気を演出し、ロシアの生活水準を一気に引き上げることに成功した。これは紛れもなくプーチン大統領の実績である。
景気低迷の長期化で有権者の支持離れが加速
首都モスクワを歩けば、その都市インフラは西欧の先進国と遜色ないレベルであることがわかる。街並みはロンドンやパリよりもむしろ整然としており、快適かもしれない。旧ソ連末期から長らく続いた社会的な混乱からかけ離れた良好な都市環境が広がっている。モスクワ以外の主要都市でもインフラの改善は進んでいるようだ。
ただ権威主義的な政権運営が長期化するにつれて、プーチン大統領に権力が集中し過ぎてしまうという弊害が深刻化した。景気が好調なうちはそれでもよかったが、2010年代半ばに景気が原油価格の急落や欧米からの経済制裁で悪化すると、プーチン大統領に対する有権者の不満が抑えられなくなってきたのである。
こうした中でもう1つの評価、つまりプーチン退陣論が盛り上がりを見せるようになった。もともと都市部の中間所得者層を中心にプーチン人気には陰りが見られたが、先に述べたように景気低迷の長期化で従来の支持者層である地方の保守層の支持離れも進んでいるため、プーチン政権は焦燥感を露わにしているのである。
低迷が続く景気を打破したいプーチン大統領は2018年5月、19年から24年までの5年間を対象とする13分野にわたる「国家プロジェクト」を発表したが、その際も支持者層が多い地方都市の開発を進める内容を多く盛り込んでいる。もっとも計画の進捗は資金不足もあって遅れており、農村部の生活の質の向上にはつながっていない。