対米貿易摩擦日本と中国の違いとは
トランプ大統領は「制裁関税」や「追加関税」をちらつかせながら、貿易問題で世界中を引っ掻き回してきた。なぜそんなことをするのかといえば、「アメリカファースト」という理念の問題よりも、トランプ大統領自身が貿易や経済の構造というものを根本から理解していないことに起因していると思う。
わかりやすい例が中国との貿易摩擦問題である。トランプ大統領は16年の大統領選のときから「中国人が我々の雇用を奪っている」と訴えて対中関税45%を公約に掲げ、大統領就任後も制裁関税を課して中国を叩き続けてきた。
アメリカの失業率は10年以降下がり続けて現在は3%程度。ほとんど完全雇用、というより人手不足に悩まされている。中国人がアメリカ人の雇用を奪ったという事実はないのだ。
かつて日米の貿易摩擦が激しかった頃、日本の企業は自らのブランドを掲げてアメリカ本土に攻め入って販路を開き、メードインジャパンの商品を大量に輸出して、アメリカの企業を追い込んだ。倒産に追い込まれて、奪われた雇用も少なからずあった。
一方で中国は、当時のソニーやホンダのように自分からアメリカに攻め込んで、設計やマーケティングを行い、あるいは販路を築いて、自らのブランドでアメリカに商品を輸出している企業というのは、私が知る限り一社もない。もちろんファーウェイのように力があるところもあるが、安全保障上の理由などで直接アメリカに売り込むことができないでいる。
統計上、アメリカの対中貿易赤字が60兆円規模まで膨らんでいる最大の理由は、中国企業が売りつけるからではない。アメリカ企業が買うからである。アップルなどのメーカーやアパレル、ウォルマートのようなスーパーが中国の企業に発注して作らせた製品が、アメリカに入ってきているにすぎない。発注者はすべてアメリカ、あるいは日本や台湾、韓国などの企業であって、中国企業がアメリカ人の雇用を奪った痕跡はどこにもないのだ。
習近平はトランプより一枚上手か
日本企業は不均衡を是正するために生産をアメリカに移し、苦労して現地化を進めてきた。結果、今では年間約400万台の日本車がアメリカ国内で生産されている。これは日本からの輸入台数の倍近い。繊維から始まって鉄鋼、テレビ、半導体、自動車など日米の貿易摩擦はあらゆる分野に及んできたが、貿易交渉で日本が反発したことは1度たりともない。すべてアメリカの言いなりで「改善」の努力を重ねて解決してきたのだ。従って、現在の日米貿易に大きな懸案事項はもう残っていない。自動車にしても現地化が進んで、輸出の主体は多品種少量生産の車種だ。