より大きなネットワークに目を向けよ

例えば、ジョージタウン大学のブルース・ホフマン教授は、テロ研究の専門誌『CTC Sentinel』(2016年11月/12月号)の中で、バグダディが死亡した場合におけるISとアルカイダの接近・和解について言及した。

また、2017年2月、シンガポール・南洋工科大学のBilveer Singh博士は、同大学のテロ研究機関ICPVTR(International Centre for Political Violence and Terrorism Research)が発表するコメンタリーの中で、ISとアルカイダの合併による「メガ・ジハード・グループ(Mega Jihad group)」誕生の可能性について言及した。

ISはイラクのアルカイダ(AQI)を由来とする。両者の対立は方法論の違いであり、最終的な目標が違うわけではない。また、ISが台頭すると、一定期間のうちに、アルカイダ系組織の中からISへ流れる組織(離反者たち)が各地で見られたが、それは支持者たちにとって両者がそれほど違うものではないことの示す裏付けとなる。

以上、今回のバグダディの殺害を巡る情勢から3点を指摘した。しかし、重要なのはバグダディが殺害されたことではない。これを踏まえ、国際的なテロ情勢が中長期的にどう変化し、今後の世界情勢にどんな影響を及ぼす可能性があるのかを真剣に考えることだ。バグダディの殺害は1つの通過点にしかすぎない。

そして最後に、ISやアルカイダは1つの組織/ネットワーク/ブランドであり、サラフィー・ジハード主義を掲げる組織や個人を束ねたより大きなネットワーク全体の前衛でしかない。確かに、前衛があることで全体が勢いづくことはあるが、ISやアルカイダの名前を意識しすぎると、脅威の本質を見失う。要はもっと広い視野で、多角的に、中長期的にリスクを考える必要があり(ISには外国から多くの女性や子供も加わっており、人権問題でもある)、このリスクは、SNSやドローン、5Gや3Dプリンタなど技術革新の問題とも密接に関係しているのである。

※参考資料
“AQ Ideologues See Baghdadi's Death as Retribution for IS Criminality, Urge its Fighters to Repent”, SITE Intelligence Group, October 28, 2019.(有料記事)
https://news.siteintelgroup.com/Jihadist-News/aq-ideologues-see-baghdadis-death-as-retribution-for-is-criminality-urge-its-fighters-to-repent.html
“The Global Terror Threat and Counterterrorism Challenges Facing the Next Administration”, CTC Sentinel, November/December 2016, Volume 9, Issue 11.
https://ctc.usma.edu/the-global-terror-threat-and-counterterrorism-challenges-facing-the-next-administration/
“The Jihadist Threat in Southeast Asia: An Al Qaeda and IS-centric Architecture?”, Bilveer Singh, RSIS Commentary, 08 February 2017.
https://www.rsis.edu.sg/rsis-publication/cens/co17025-the-jihadist-threat-in-southeast-asia-an-al-qaeda-and-is-centric-architecture/#.Xbhf5Uu6coc

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