米国の戦略国際問題研究所(CSIS)は去年11月、ISやアルカイダなどグローバルジハードを標榜するイスラム過激派は、世界に67組織(9.11時から約1.8倍増加)存在し、そういった組織に参加する戦闘員は、中東やアフリカ、南アジア、東南アジアなど各地域に合計で10万~23万人いるとする報告書を発表した。

バグダディの殺害は、近年その組織力とブランド力が落ち込んでいたISにとって、さらなるボディブローとなったことは確かだろう。しかし、サラフィー・ジハード組織(編集部注:ISやアルカイダなどなど、イスラム初期の時代へ回帰すべく、厳格なイスラム法による国家建設を武力を用いて実現しようとする組織)やその支持者のネットワークという全体から見れば、バグダディの死はその一部であり、世界がより安全な場所になったことにはならない。同じような主義主張を掲げる組織や個人は今でも存在する。

後継者問題はアルカイダより苦しいか

次に、ISの後継者を巡る問題だ。10月27日には、バグダディだけでなく側近のムハージルも殺害されたという。外国の一部メディアでは、後継者候補として複数の人物の名前が挙がっていたが、今回発表された新たな後継者に、どこまで知名度とカリスマ性があるのだろうか。

これは2011年5月、パキスタンでオサマ・ビンラディンが殺害された時と比較すると分かりやすいが、その後、長年副官を務めていたアルカイダのナンバー2のアイマン・ザワヒリが後継者となった。1988年のアルカイダ設立以降、ザワヒリはアルカイダの中で地位を築き、国際社会での知名度も高い。しかし、ポストビンラディンのアルカイダにおいて、ザワヒリの指導者としてのカリスマ性の問題は常に指摘され、現在に至るまで何か大きなことを達成したわけではない。

そう考えると、ISが置かれている現状は当時のアルカイダよりも深刻かもしれない。ザワヒリのような後継者がいたわけではなく、例え後継者を発表し、その人物の正当性をアピールしたとしても、どこまで既存の組織や個人から支持を集められるかは大きな問題だろう。

27日にトランプがバグダディ殺害を表明してからしばらく、ISはバグダディの死亡について、それを認める声明や否定する証拠などを何も示さなかった。ISが一定の組織力を維持しているのであれば、弱みを見せないためにも何か発表したであろう。時間がたつほどISにとっては不利な状況になっており、さらなる求心力の低下を招くだけである。

31日に後継者と発表されたブイブラヒム・ハシミ・クラシという人物も、知名度は高くなく、どこまでカリスマ性があるかも分からない。ISは米国への報復を示唆したが、筆者にはアルカイダのようになるISの姿(指導者にテロを実行する組織力・指導力はないが、欧米への攻撃を呼び掛ける姿)が目に映る。