テロリストにとって重要なのは「タイミングと場所」
東京五輪がいよいよ来年に迫ってきた。一方で、五輪を舞台にしたテロが起きるのではないかという懸念も社会にはある。飛行機や電車、地下鉄やバスなどに乗れば、「テロを許さない」「テロ警戒」などの文字を目にするし、鉄道会社などは地元警察と協力して、テロ対策訓練をよく実施している。五輪本番が近づくにつれ、こういった動きは一層進むことだろう。
では、なぜ東京五輪でテロが懸念されているのか、また、どのようなテロが最も可能性があるのか。今回はこの二つに絞って説明したい。
一つ目の、なぜ東京五輪でテロが懸念されているのかだが、これについては、テロリズムの歴史と近年の動向を理解する必要がある。
まず、テロリズムとは、政治的・社会的な主義・主張を持つ組織や個人が、自らの目的を達するために暴力を行使し、社会に不安や恐怖を与える行為である(専門家によって、テロと捉える範囲には少なからず違いがある)。テロ組織は自らの目的を達成するため、暴力という手段で社会に不安や恐怖を植え付けようとする。テロ組織にとって、テロ攻撃とは手段であって、目的ではない。
しかし、何も考えないで行動するテロ組織は存在しない。テロ組織と国家(公権力)が戦えば、国家が勝つ。だから、テロ組織は国家との正面衝突はできるだけ避け、国家の不意を衝(つ)ける機会をうかがう。タイミングや攻撃場所はテロ攻撃の成否を大きく左右するため、テロ組織としては、攻撃によって社会に大きなインパクトを与えることができそうなタイミングを選ぶ。
過去、世界中のメディアの注目が集まる五輪では、そうしたテロ事件が実際に起こってきた。1972年のミュンヘン五輪では、パレスチナの武装組織「黒い九月」が選手村でイスラエル人選手11人を殺害する悲劇があった。1996年のアトランタ五輪では五輪公園に仕掛けられた爆弾が爆発し、1人が死亡、100人余りが負傷した。
21世紀に入っても、2008年の北京五輪の際、中国からの分離・独立を掲げるウイグル系のイスラム過激派の活動が活発化し、2014年のソチ五輪の直前には、ロシアからの分離・独立を掲げるカフカス系のイスラム過激派によるテロ事件が繰り返し発生した。