「ローンウルフ型テロ」の脅威
さらに、テロ組織とは具体的な接点はないものの、イスラム国やアルカイダなどが発信し続けるイスラム過激思想、また、今年3月のニュージーランド・クライストチャーチのモスク襲撃テロのように、移民・難民への敵意をむき出しにした暴力的な白人至上主義などの影響や刺激を受け、単独的にテロを実行する個人(ローンウルフ)が大きな脅威となっている。
フランスの革命記念日にあたる2016年7月14日、ニースにある海岸線のメインストリートで同日を祝う花火を見物していた人々に向かって、トラックがジグザグに突っ込み、84人が死亡、200人以上が負傷した。実行犯はチュニジア生まれの31歳(当時)で、テロ組織との関係はないものの、事件の数カ月前からイスラム国やアルカイダなどの動画を観るなどして過激化し、ひげも生やし始めていたという。
また、2016年12月19日、ドイツ・ベルリン中心部にあるクリスマスマーケットに大型のトラックが突っ込み、12人が死亡、50人以上が負傷した。実行したのはチュニジア国籍の20代の男で、イスラム国の指導者であるバグダディ容疑者に忠誠を誓い、逃亡先のミランで殺害された。
テロ組織も、ローンウルフ的なテロリストも多種多様であり、それら全てが五輪を狙うわけではない。しかし、過去、テロ組織はタイミングとして五輪を利用しており、イスラム過激思想の影響を受けるローンウルフ的なテロ事件も、フランスの革命記念日やキリスト教行事であるクリスマスの時期に起きている。今年4月21日に発生したスリランカ同時多発テロも、キリスト教の復活祭にあたるイースターのタイミングで、複数のキリスト教会が狙われた。また、上記のモスク襲撃テロも、金曜礼拝で集まるイスラム教徒を狙ったものだった。
簡単に手に入るものが武器になる
次に、どのようなテロが最も可能性があるのかである。最も現実的に考えられるのは、やはり日常生活で簡単に手に入る物を使ったローンウルフ的なテロだ。
新年が明けたばかりの2019年1月1日未明、東京原宿にある竹下通りを車が暴走し、8人が負傷する事件があった。車を運転していたのは職業不明の21歳の男で、1月5日の朝日新聞の報道(※1)によると、「死刑制度に反対している、同制度は国民の総意、だからなるべく多くの人を狙った」などと供述したとされる。同事件は依然として不明な点も多いが、東京五輪で懸念されるのはまさにこういったタイプのテロだ。