人混みに近づかない、長居しない

身近にいる人間が、手に入りやすい物を利用して行うローンウルフ型のテロは、防止することが極めて難しい(テロという行為はもともと、実行する側に有利なものだが)。ひとつの対策として、大勢の人々が集まる場所を「歩行者天国」として車両の通行を禁止し、その外に車両の進入を防止する強固なブロック塀などを置くことは有効だろう。

各自でできるテロ対策もある。五輪の期間中には、会場やその周辺だけでなく、新宿や渋谷などでも大勢の人々が集まることが考えられる。そのような場所をできるだけ「避ける」「近づかない」、もしくは「長居しない」など、注意を持って行動することで、巻き込まれるリスクを下げることができる。

また、2015年11月のパリ同時多発テロや、2017年5月のマンチェスターアリーナ自爆テロでは、大きな音が響き、大勢の人でごった返す閉ざされたコンサート会場が標的となった。歌手の声や楽器の音で銃声に気づくのに遅れ、うまく避難できなかったとの声も聞かれる。東京五輪でもコンサート会場のような状況が一部で想定されることから、非常口を事前に確認する、周囲の音に注意が払えるようイヤホンを付けない、といったことも意識したいところだ。

東京五輪本番まで、あと1年しかない。身近なテロ対策からでもいいから着実に実施していけば、それが社会の意識を向上させ、五輪の安全な成功にもつながるはずだ。

※1: 朝日新聞ウェブサイト2019年1月5日「原宿暴走の容疑者、動機を『死刑支持許せず』と供述

和田 大樹(わだ・だいじゅ)
オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学非常勤講師
1982年生まれ。岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員、日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。共著に『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』(同文館)、『技術が変える戦争と平和』(芙蓉書房)など。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)。
研究プロフィール https://researchmap.jp/daiju0415/
(写真=AFP/時事通信フォト)
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