「対立」ばかりではないアルカイダとの関係
そして、3点目は、今回の現場がシリア北西部イドリブ県という点だ。筆者は、バグダディはイラク国境に近いシリア東部で逃亡生活を続けていると思っていたが、彼がいたのはアルカイダ系勢力をはじめ多くの反政府勢力が集中するイドリブ県だった。なぜだろうか。
一部では、イドリブ県を拠点とするアルカイダ系組織「フッラース・アル・ディーン」とバグダディの接近があったとの見方もあるが、詳細については明らかになっていない。だが、テロリズム研究の視点からは、その可能性を示唆する専門家もいる。
2018年2月に台頭したフッラース・アル・ディーンは、ハヤート・タハリール・シャーム(HTS)から分派した組織で、アルカイダを強く支持している。フッラース・アル・ディーンの戦闘員は1500人から2000人程度で、その約半数近くが他の中東諸国や北アフリカ、中央アジアなどからやってきた外国人戦闘員で占められ、エジプト人やヨルダン人の戦闘員が幹部として組織を主導している。
米国は、このフッラース・アル・ディーンを今年9月に国際テロ組織に指定し、シリア北西部にある同組織の拠点を空爆するなど攻勢を強めている。
一口にISといっても、それに参加する戦闘員の国籍や目的、士気はさまざまだ。ISの戦略や残虐性、内部の腐敗などからこれまでに多くの離反者が出ており、その中にはフッラース・アル・ディーンなど他の勢力に流れた者も少なくない。
ISとアルカイダは対立状態と表立っては言われるが、末端兵士のレベルではいくつもの離反や加入が生じていると考えるのが自然だろう。領域支配を失う中、ISに同じような統率力があったとは考えにくい。
また、イスラム過激派の動向を監視する米国の「サイトインテリジェンス(SITE Intelligence GROUP)」が29日に配信した情報によると、アルカイダの信奉者たちはバグダディの死亡を事実と認め、ISの戦闘員たちに自らの立場を再考するよう求めたという。再考するよう求めるとは、文字通りの意味を取れば、アルカイダ信奉者たちはISの戦闘員を真っ向から否定しているわけではないということが想定される。
近年、テロリズム研究者たちの世界では、ISとアルカイダの関係の行方を模索する研究が行われている。それらには、現在のグローバルジハードの主導権を巡る争いが続くという意味での“対立”、対立状態の中でも密かに協力関係が生じるという“接近”、組織としては別であるが、両者が協力関係を宣言して戦いを続けるという“共闘”、そして現在では最も考えにくいが、一方が片方を吸収する、もしくは合わさって新たな名前を冠した組織が台頭するという“合併”などがある。