「90%できた」では、海外で苦笑いされる
日本人は、奥ゆかしさから、物事をはっきりと断言しないことがありますが、これはロビイングでは百害あって一利なしです。以前、オリンピックの招致を担当していた外国人アドバイザーからも、日本の招致団は「セキュリティーは90%整っています」とプレゼンしていたけど、そういう時には「セキュリティーは完璧だ」と言い切るべきだとアドバイスしたとのことでした。
日本人的発想だと「90%」を「完璧」と言い切ってあとで何かあったら問題になるのではないだろうかと考えがちですが、粘り強く自信と熱意を持って堂々と主張しなければ、国際交渉では勝てないのです。
招致活動時に国内外から一番心配されたのは「スタジアムにお客が入るのか」ということでした。海外からならともかく、日本のラグビー関係者もこれを一番心配していました。しかし、私たち招致団は「スタジアムは必ず満員になります」と断言しました。はったりと言われるかもしれませんが、自信を持って言い切らないとネガティブ要因になり、票が入ってきません。いま、どのスタジアムも満員になっているのを見て「ほら、言ったとおりでしょ」と言いたいぐらいです(笑)。
招致に名乗りを上げている国の代表団は、理事国の幹部をつかまえては投票前夜のホテルのバーで深夜まで飲み交わしながら、相手の目をしっかり見据えて「明日は私の国に投票してください」と熱っぽく訴えます。私たちも負けずに深夜3時過ぎまでバーに残って訴え続けました。
いかにストレートに意見を伝えられるか
招致活動では、私が20代のなかばに、ウェールズに滞在していた時の経験が役に立ちました。当時、経済的に余裕がなかったので、家や庭の掃除をすることを条件に、家賃無料で老夫婦の家の1部屋に住まわせてもらっていた時期があります。貧乏学生でしたから、私の寝起きしている2階の部屋にはテレビがありませんでした。
あるとき、ご夫婦が「コウジ、もし見たかったら一階のリビングで私たちと一緒にテレビを見に来てもいいよ」と言ってくれました。その日の夜、私はさっそくテレビを見ようと階段を下りて行くと、お二人が仲睦まじくテレビを見ていました。私は、さすがにそこに入って行くことができず、そっと階段を上がって部屋へ戻りました。
3日ほどして、奥さんが「あなたは私たちとの生活がハッピーではないの?」と聞いてきました。「どうしてですか?」と聞き返したら、「だって、全然テレビを見に来ないじゃないの」と。私が事情を説明したら、「私たちは、もし来てほしくないのだったら最初から誘いません。来てもいいから声をかけたんですよ」とおっしゃったんです。この時に、英語では自分の考えをはっきり相手に伝えることが大切だということを学びました。