実は大きく低下している高齢者の死亡事故率

ところで、高齢ドライバーの死亡事故が本当に上昇しているかどうかを統計データとして確かめるためには、年齢別に免許人口当たりの死亡事故率を計算してみなければならない。図表3に警察庁が公表しているこの計算の結果を示した。

そもそも死亡事故率が高いのは、むちゃをしがちな20代までの若い層と、心身が衰えてくる70歳代以上の高齢者層とであるが、すべての年齢層で死亡交通事故率が低下している中で、若い層と高齢者層のどちらも他の年齢層以上に事故率は大きく低下しているというのが実態である。

特に75歳以上の減少幅が大きい点が目立っている。つまり高齢ドライバーの事故の割合は確かに母数である高齢ドライバーの急増で増えているが、事故率はむしろ大きく低下しているのであり、高齢者の身勝手さを非難してしかるべき状況にはないことが分かるのである。

そうだとするとなぜ、われわれは高齢者が身勝手であると感じてしまうのであろうか。この点を次に見ていこう。

「高齢者は人のために生きるべき」というロールモデルの崩壊

結論から言うと、高齢者が実態以上に身勝手だと見えてしまう背景には、知らず知らずに進んでいる「年齢別ロールモデルの崩壊」という現代社会の変化が影響しているというのが私の見方である。

若いうちは好きなことをやって、その後、結婚し家族ができ、社会的にも責任のある立場となると、自分のことというより、周りの人のことを考えて行動するようになる。というのが一般的な人の生涯経路(ライフコース)だと考えられてきた。