NHKの責任者が日本郵政の抗議に屈していた

それでも日本郵政側の怒りは収まらなかったようで、2018年10月に日本郵政がNHKの経営委員会に、ガバナンス体制の検証を求める書面を送付。NHK経営委員長の石原進・JR九州相談役が、上田会長を厳重注意とした。結局、上田会長は「番組幹部の説明を遺憾」とする事実上の謝罪文を日本郵政側に届けた。会長名の書簡を届けたのは専務理事・放送総局長と編成局部長だったという。放送の現場責任者が、日本郵政の抗議に屈していたのだ。

なぜ、そんな弱腰の対応にNHKは終始したのか。実は、抗議をしてきた相手が、日本郵政の鈴木康雄副社長だったことが大きいだろう。謝罪文を受け取った鈴木副社長が、経営委員会宛ての文書を送り付けていたことが、報道で明らかになっているが、それを読むと、その強引さが分かる。

そこにはこうある。

「会長名書簡にある『放送法の趣旨を職員一人ひとりに浸透させる』だけでは充分じゅうぶんではなく、放送番組の企画・編集の各段階で重層的な確認が必要である旨指摘しました。その際、かつて放送行政に携わり、協会のガバナンス強化を目的とする放送法改正案の作成責任者であった立場から、ひとりコンプライアンスのみならず、幹部・経営陣による番組の最終確認などの具体的事項も挙げながら、幅広いガバナンス体制の確立と強化が必要である旨も付言致しました」

企画・編集段階で重層的にチェックをし、幹部・経営陣が番組を最終確認しろ、と言っているのだ。

日本郵政副社長「(NHKは)まるで暴力団と一緒」

NHKには組織のトップである会長のうえに、外部の経営者らからなる経営委員会があるが、経営委員が個別番組の編集に介入することは放送法で禁じている。経営委員会がガバナンスを理由に番組に口を出したことには、メディア界などから一斉に批判の声が上がっている。まして、NHKが報じたかんぽ生命の不正販売問題は、その後事実として明らかになり、大きな社会問題になっている。日本郵政側の抗議は、その事実を隠蔽しようとした形になったわけで、その余波は大きい。

日本郵政の長門正貢社長は9月30日の記者会見で、当時の放送を改めて見たと明かしたうえで、「今となっては全くその通り」とし、社内調査などを経ないままNHKやNHK経営委員会に抗議していたことについて、「深く反省している」と平謝りだった。

ところが、前述の文書を送った鈴木副社長は今も納得していないようだ。10月3日に野党から国会内に呼び出された鈴木氏は、番組取材の手法や報道内容にも問題があったとNHKを改めて強く批判したのだ。

「まるで暴力団と一緒。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならやめたるわ、俺の言うことを聞けって。バカじゃねぇの」と記者団に語ったと朝日新聞は報じている。