我、人、国を富ませて真正の富と言える

もうひとつ、会社の永続発展のために必要なのは自社の業務に“究極の付加価値”をつけていくことでしょう。銀座テーラーにとってのそれは、お客様の素晴らしさです。政財界のトップクラスの方々が当社を支持してくださっています。その人たちのために何ができるか……。

過日、知人を介してトルコの会社と出合いました。日本に拠点を構えて10年になるという食料品を扱う商社です。日本の食料自給率は40%程度でしかありませんが、トルコは何と100%。なおかつ余った分を輸出しています。加えて、人口の6割が30歳以下。ちょうど、渋沢翁が活躍した明治維新のような息吹の中にある若い国家です。

私は、こういう国との架け橋になりたいと考えました。そこで、その商社の責任者と話し合い、私どものお客様の中で仕事柄関心のありそうな方、何人かと引き合わせました。すでに、大手食品会社との取引がスタートしています。

これがきっかけとなって、当社の事業領域が衣だけでなく食に、さらに異業種に広がるかもしれません。ダーウィンは『種の起源』に「生き残るものは強いからでも賢いからでもない。環境に最も適応したものである」と書きました。

変わることが求められるのは、再生のときだけではありません。5年先、10年先になって、お客様に「そうか、銀座テーラーは洋服屋だったのか」と驚かれるように進化したいものです。それには“ネバー・ギブアップ”の気持ちを持ち続ける必要があります。あきらめたら道は途絶えてしまいます。

そしてそれが、自分たちの利益だけでなく、お客様、地域社会、さらには国の役に立つなら嬉しいことです。企業ができる社会貢献とはそうしたものではないでしょうか……。渋沢翁も「我も富み、人も富み、しかして国家の進歩発達をたすくる富にして、はじめて真正の富と言い得る」と述べました。

渋沢翁は実業界の中でも、とりわけ社会活動に熱心でした。日本赤十字社の設立などに携わり、東京商工会議所の初代会頭も務めています。このように資本主義の発展に情熱を傾け、その生涯を閉じました。後に続く者は、その万分の一でも形にし、そこに公の精神が息づいていれば、世の中も変わってくるのではないでしょうか。

鉄血宰相と呼ばれたドイツのビスマルクは「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という名言を遺しました。歴史は繰り返します。経営者は、来るべき時代を読み解くためにも、先人たちの足跡を学ぶことが大切だと思います。

(岡村繁雄=構成 川本聖哉=撮影)