私が不本意なのは、「文春は不倫とか芸能スキャンダルばかりだ」と批判されることです。ワイドショーは視聴率を取りやすいし、ネットメディアもページビューが稼げるから、力が強くない芸能事務所に所属するベッキーさんとか斉藤由貴さんの不倫記事をさんざん後追いする。それで「また文春が不倫か」って刷り込まれるけど、実際は月に1本か2本ですよ。
【松井】何カ月もかけた調査報道もやってるからね。私の社長時代だと、舛添要一都知事(当時)が湯河原の別荘へ公用車で通っているというキャンペーン記事がある。知事の首を取っただけではなく、読み物としても面白かった。
【新谷】甘利明経済再生担当大臣(当時)の金銭授受も、相当な時間をかけました。18年も、日本テレビの看板番組『世界の果てまでイッテQ!』がお祭りをでっち上げたという記事で、記者を3週間ラオスに入れてるんです。完璧な証拠固めをしたうえで報じました。読み応えのある調査報道こそ、ネットの薄っぺらくて不正確なニュースと差別化するうえで大事だと思っています。
【松井】ただし近ごろは、情報があっという間にネットで拡散されて、消費されてしまう。大きなスクープでも、一週間ももたなくなってきたね。
【新谷】取材して原稿を書いてる段階で「これはスクープだ」と思っても、次々にネットに出ちゃうわけです。週刊文春は火曜日の夜が校了ですけど、木曜日の朝に店頭に並ぶまでの間さえもたない。だからいまは、締め切り前に文春オンラインで流す場合もあります。
【松井】当事者に直撃する映像を撮って文春オンラインで流すというのも、時代の空気をうまくつかまえたひとつの手法であるのは間違いない。森下さんもAERA dot.の編集長として、月間ページビューを3000万から1億2000万まで伸ばしたんでしょう。広告も増えた?
活路は広告モデルと課金モデル
【森下】ボチボチという感じです。19年4月まで2年間AERA dot.をやった経験でいうと、ネットといえど、多くのコンテンツは雑誌の編集部で作っています。なぜかというと、雑誌は毎週出すので、多くの部員を抱え、稼働させています。そのため、誌面の都合上、使われなかった記事やデータもたくさん持っています。
ネットに出す記事のすべてを新たに作ろうとすると、それだけコストもかかりますので、週刊朝日、AERA、ムック、書籍など大所帯の紙の編集部の力をうまく頼ったりしながら、記事を量産していきました。AERA dot.は朝日新聞出版のコンテンツを集約して配信し、その利益を出稿部に還元するハブ的な組織にしようとやっていました。