【森下】それは違います。赤い鼻の土佐犬に似た雑種です。親に叱られたとき、犬小屋に入っていただけです。

スクープで「文春砲」を定着させた新谷氏(左)、平成を象徴する事件報道の裏側を本にまとめた松井氏(中央)、女性編集長として辣腕を振るう森下氏(右)。

【松井】両親の手記を出版した大きな目的は、印税を全額、賠償に充てるためでした。少年Aの両親は、一円たりともお金を受け取ってないんです。代理人の羽柴修弁護士に会って確認したら、被害に遭った家族はみんなお金を受け取ってくれていて、総額で1億円近い額になる。

【新谷】少年Aに関しては私も思い入れがあったので、32歳になってからなぜ、手記『絶歌』を出したのか、本人に聞かなきゃいけないと思ったんです。あのとき週刊文春の編集長でしたけど、100日以上かけて彼がどこで何をしているのか調べ上げて、記者を2人行かせて直撃しました。

【松井】事件当時は、少年Aや毒物カレー事件みたいな大きなネタだと、何カ月も続けて記事を載せたでしょう。やり甲斐があったし、部数も上がった。

手堅い老人シフトの「健康、年金、相続」

【新谷】被害に遭われた方には申し訳ない言いかたですけど、事件に恵まれる恵まれないという巡り合わせは、記者、週刊誌にとっても非常に大きい。

【松井】総合週刊誌でジャーナリズムをやってるのは、いまや週刊文春と『週刊新潮』しかない。森下さんが令和になって週刊朝日の編集長になったとき、「高齢化雑誌にならないよう、歯を食いしばって頑張ってくれ」と手紙を書きました。

【森下】週刊朝日は何とかジャーナリズムで踏みとどまってくれ、といろんな方から言われます。

【新谷】ここで辛抱して頑張るのか。『週刊現代』や『週刊ポスト』のように、健康、年金、相続といった老人シフトで手堅くいくのか、どう考えているの?

【森下】私は週刊文春にいたので、どの記事をトップにしようかという感覚は似ています。吉本興業の騒動がぼっ発したとき、それを新聞広告の右トップに、京都アニメーションの放火事件を左トップにしたのですが、売れませんでした。

前編集長から「事件は売れない」と忠告されていた通りの結果になってしまって……。あまり事件は期待されてないということが、マーケット的にはっきりしている部分もあるんですよ。そこは「文春砲」とは違う。

「文春砲」はスクープのブランディング化

【新谷】「文春砲」というのは、いまどきの言葉でいえばブランディングなんです。週刊文春といえばスクープ。スクープといえば週刊文春。事件の当事者になった人が「この話を記事にしたい」と考えたとき、真っ先に浮かぶメディアが週刊文春であってほしい。その好循環でネタが集まっています。