トランプの交渉術としては、次のようなものもある。

まず、トランプと閣僚や側近たちの発言が、いちいち一致していないんだ。これを「トランプは政治の素人だから、組織内の調整や政治的な調整もせずに思い付きで言い放っているにすぎない」と見る人もいる。だけど、僕はそうじゃないと思う。トランプは根っからのビジネスマンだから、ポーカーをするように世界を攪乱しているんだろう。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

たとえば、トランプが不法移民阻止のため、メキシコとの国境に「メキシコの費用負担で壁を築く!」と言えば、閣僚や側近たちは「そんなことはしない!」と言う。また、トランプが「イスラエルのエルサレムに大使館を移す」と言ったら、「いや、そんなむちゃなことはさせない」と閣僚や側近たちから反論が出た。こんな例は山ほどあって、両者の発言は見事にバラバラだ。

でも、これが対外的には威力を発揮する。トランプと閣僚や側近たちの意見が一致していないということは、結局どちらに落ち着くのかが、相手にはわからないからだ。たとえば「国境の壁」についても、アメリカは「建設しない」「建設する」、どちらのカードも持っているということになる。そうすると、メキシコも画一的な対策を練ることができない。よく考えているなと思うよ。

善人に見える政治家もほとんどはただの「善人キャラ」だ

そもそも、むちゃくちゃな奴だと相手に思われていたほうが、何かと便利だということもある。文春の異性スキャンダル報道を見ればわかるけど、何かあったとき、もともと「いい人だ」と思われてた人のほうがダメージは大きい。少し古い話になるけど、乙武さんやベッキーさんがいい例だ。逆に、芸人さんや歌舞伎役者さんは、もともと「そういうことするだろうな」と思われがちだから、多少驚かれたりはしても、批判はそれほど出ない。

もちろん、政治家は、基本的には善人じゃないと票や支持率が増えないから、トランプみたいなことができる人はほとんどいない。でも、トランプははじめから悪役キャラで票を集めて、あのヒラリーに勝って、アメリカ大統領になった。インパクトでも交渉力でも、これほど強い人はいない。

ちなみに、僕がこれまで会ってきた政治家で、本物の善人なんかほとんどいないよ。「命をかけて日本を守る!」なんて感傷的なセリフを言う人は多いけど、ほとんどはただの「善人キャラ」なんだよね。

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