2つめは、実際に会ったときのギャップによって「交渉力」が上がること。

ガンガン言う「悪人キャラ」の人が、実際に会ったときに愛嬌のあるところを見せると、それだけで多くの人はほだされてしまう。「実はいい人なんだ!」ってね。現状を打破するための交渉の基本は、「脅し」「利益・譲歩」「お願い」。

最初に悪人キャラを強烈に出すと、そのあとちょっと「善人」な部分を見せるだけで、相手は結構安心するし、ホッとする。それだけで相手は利益を得たように感じてしまうんだ。これを「仮装の利益」という。

こちらはなんの持ち出しをしなくても、相手が勝手に利益を感じてくれるんだから、やらない手はない。

僕も若い頃は茶髪にジーパンで、無理して(笑)頑張っていたけど、それもある種の演出だ。茶髪なんて、よく考えたらどうってことないのに、当時は、弁護士が茶髪にするだけでちょっとした話題になったんだ。あの頃は、その出で立ちで少し敬語を使っただけで「礼儀正しいんですね」と評価されたり、「よく笑うんですね」と喜ばれたりもしたね(笑)。

あえて大統領と閣僚がバラバラの意見を述べる理由

トランプも、パーティなんかで会うと、一緒に写真を撮ってくれたり、サインをしてくれたり、ものすごく愛想がいいらしい。一国の大統領にそんなことされたら、「実はいい人なんだ!」って有権者がほだされちゃうのは当然だよね。

トランプは、2016年11月に安倍首相がトランプタワーを訪問したときにもそれをやった。それまで日本をバッシングしまくっていたのに、安倍さんと会ったらそんなことはまったく言わないんだ。見事だよね。

そういうところで交渉相手と強い人間関係をガシッとつくるから、何かあったときにお互いに譲歩する土台ができる。これは、理想論ばかりだったオバマ前大統領に足りなかった部分だ。

トランプは、世界各国の弱い部分=急所を見つけ出して、ツイッターなどでそこを突いてくる。でも、直接会ったときには、そんなことおくびにも出さず、旧くからの友人のように振る舞う。そうすると、それだけで相手は勝手に「利益」を得たと感じてくれる(仮装の利益)んだから、すごい交渉力だよ。日本も中国も、トランプのこの手にすっかり乗せられてしまっているね。