保育園通いの効果の正しい測り方

こうして作られた子どもの発達や、しつけの質、お母さんのストレスと幸福度といった指標が、保育園通いをすることで、どう変化するのかを測るのが研究の目的です。真っ先に思いつくやり方は、保育園に通っている子どもと、通っていない子どもとの比較ですが、実はこのやり方では、保育園通いの効果を正しく測ることができません。

なぜかというと、保育園に通う前の段階で、両者は、発達状態や家庭環境がさまざまに異なっている可能性があるためです。したがって、保育園に通っている子どものほうが、通っていない子どもより発達が進んでいたとしても、それが、もともとあった家庭環境の違いを反映したものなのか、保育園通いの効果なのか、区別がつかないのです。

実際、保育園を利用している家庭のお母さんの学歴は、保育園を利用していない家庭と比べると高めです。逆に、お父さんの学歴を見ると、保育園を利用していない家庭のほうが高い傾向があります。このように、保育園利用の有無に応じて家庭環境が異なる可能性が高いため、単純に保育園の利用の有無だけに基づいて子どもを比べても、保育園通いの効果はわかりません。

私たちは、保育園を利用する家庭と、利用していない家庭のさまざまな違いを統計学的に補正した上で、両者を比較することで、保育園利用の効果を測定しています。

保育園通いで子どもはどう変わる?

では、保育園通いが子どもの発達に及ぼす影響を見てみましょう。

図表2では、保育園通いの効果を、母親の学歴別に表示しています。言語発達については、母親の学歴によらず、保育園通いによって0.6から0.7程度改善しています。これは偏差値換算で6から7ですから、大きな伸びです。

真ん中のグラフは多動性指標に対する効果を示しています。お母さんの学歴によらず、多動性が減少していますが、特に効果があったのは、お母さんが高校を卒業していない場合です。

一番下のグラフは攻撃性指標に対する効果です。お母さんが4大卒以上であれば、ほとんど効果はありませんが、お母さんが高校を卒業していないと、子どもの攻撃性がマイナス0.43と大きく減少しています。

保育園通いは、特定の家庭環境の子どもの多動性・攻撃性といった行動面を大きく改善させることが明らかになったのです。