「女性総理」は難しいが、知事や市長なら出てきやすい

メディアは「女性初」を持ち上げます。そうすると、女性活躍の流れに乗っていきたいという、コマーシャリズムに長けた女性も出てきますよね。でも本書では、そういう女性は取り上げていません。

もう一つ、大事にしたのは世代です。84歳の石原さんから56歳の歌る多さんまでを取り上げることで、戦前から今に至る女性の生き方の変遷がわかるような、彼女たちを語ることによって女性の歴史をつかむことができるような構成にしました。

撮影=プレジデントオンライン編集部
ノンフィクション作家の石井妙子さん

——印象的なのが「政治家」がいないことです。政治の世界が遅れている、ということを象徴しているように思います。

初出の記事には掲載したのですが、この本に収録できなかった女性に、「タテ社会」分析で有名な中根千枝先生(女性初の東大教授)がいます。

中根先生は私の取材に、まだ女性総理は誕生しないだろう、とおっしゃいました。やはり、国政にはタテ社会の論理がある。それを超えて、突然、ポンと女性が風に乗って総理になることはないだろう、と。

ただし、直接選挙で選ばれる知事や市長といった首長なら、人気が優先するので、女性が当選しやすくなるだろう、と。

その話のあとに東京で小池百合子都知事が誕生するんですね。中根先生の指摘は非常に鋭いと思いました。

トップにいる男性政治家の好みで引き上げられている

実力のある女性政治家を、取り上げたいと考えてはみたのですがやはり適任者を見つけられなかった。自ら実力で切り開いたというより、典型的な男社会である永田町で上にうまく取り入って、「女性ポスト」を手に入れていくというのが、一つのパターンであるように見えます。

妙にタカ派的な発言をして目立とうとする女性議員がいるのも、今のリーダーに好かれたいという思いからでしょう。結局、今のところ政界の女性たちは、実力よりも、トップにいる男性政治家の好みで引き上げられている状態。

政治の世界は逆に停滞していると思います。戦後初期は女性議員が多く登場し、比率だって高かったですよね。そこからどんどん逆行しているように思えます。

ご存命なら、土井たか子さんには社会党を率いて、女性議長にまで上り詰めた経験を聞いてみたかった。本書では、政治家ではないけれど、男女雇用機会均等法という法律の制定に官僚として取り組み、のちに文部大臣も経験した赤松良子さんを政治・行政分野の代表として取り上げました。