「目の前が急に明るくなったように感じた」

——この本に登場する突破する女性のバイタリティはすごいものがあります。

石原さんにしても、赤松さんにしても非常に良い教育を受けていると感じました。彼女たちは戦争を経て、二十歳前後で終戦を迎えた。そこへGHQがやってきて、日本国憲法が制定された結果、女性であっても大学に行けることになり、参政権も与えられた。多感な時期に時代の大きな転換点に遭遇したわけです。

石原さんも、赤松さんも口をそろえて「目の前が急に明るくなったように感じた」と。それで大学進学を果たすんですね。ちょうど大学進学できる年齢で終戦を迎えたから。でも、自分と同じような学力でもさまざまな事情で進学できなかった女性がいる。学べずに亡くなった人たちもいる。そうした人たちの思いも酌んで進学した。だから、恵まれた自分は新しい日本を作るために頑張るんだ、という使命感もあったんだろうと思います。

ノンフィクション作家の石井妙子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
ノンフィクション作家の石井妙子さん

特に赤松さんの場合はお母さんとお姉さんの存在が大きいんですね。お母さんもお姉さんもとても優秀だったと彼女は語っています。お母さんは女性だからという理由で、小学校にも行かせてもらえなかった。「私なんかよりはるかに優秀」だったというお姉さんは女性だからという理由で、女学校までしか行けず、思うような生き方ができなかった。赤松さんは男女不平等な社会に怒りを感じながら育ったそうです。

自分の利益を優先させるようなエリートではない

お姉さんは、赤松さんよりちょっと早く生まれたばかりに戦後の教育改革の恩恵を受けることができなかった。赤松さんの経歴だけをみれば、スーパーエリートですが、身近なところに女性だからという理由だけで不遇をかこった人たちがたくさんいて、彼女たちの思いも背負って女性官僚として生きたのだと思います。

また、やはり戦争を経験しているので、終戦の解放感と学ぶ喜びが、とても大きかったようです。戦争が終わり、学べる、本が読める、議論ができる、真理を求めることができる、という喜びがあった。終戦直後に大学入学を果たした彼女たちはたくましく、教養も豊かです。それは使命感と喜びが原動力なのでしょう。

——エリートであっても、エリートの利害だけを考えているわけではないと。

自分の利益を優先させるようなエリートではないですよね。幸いにしてエリートコースを歩んだ自分は何をしなければいけないかを自問自答なさっている。

赤松さんが制定に深く関わった、男女雇用機会均等法も働くエリート女性の待遇改善が目的ではない。もっと広く、女性全体、社会全体を見渡して考えられたもの。だからこそ、本書に書きましたが、与党の自民党からも野党の共産党からも激しく反発されたわけです。