これからは日本の良さを発信する段階に

【三宅】最近のグローバル化の中で日本の地位が下がっているとか、あるいは最近の若者に自信がないとかいろいろ言われるわけですが、山崎さんのご経験から日本のこういう点はいいところだという何かおありでしょうか。

【山崎】私自身、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダなど世界を転々としましたが、日本に帰ってくるたびに感動するのは住みやすさですね。子どもが1人で歩いて学校や公園に行くことができますし、移動や買い物も本当に便利です。あとは世界中の情報や文化に触れやすい文化的なインフラが整っていることもすごいと感じます。逆にいうと、いままでは世界から情報や文化を受け入れることを上手に行ってきたので、これからは日本の情報や文化を世界に発信していくフェーズに入っていくといいなと思います。

【三宅】そうですね。

撮影=原 貴彦
宇宙飛行士の山崎直子氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)

【山崎】海外に行くと一部の方は日本人以上に日本のことに詳しくて驚かされますが、一般の人をみると日本のイメージはまだステレオタイプです。富士山、桜、京都、侍、アニメなど。でも日本人がもっと世界に進出するなり、日本から情報を発信していく社会になると、日本のイメージもだいぶ変わっていくと思います。

【三宅】私どもの学校でも過去45年間にわたって何千名もの外国人教師を採用しています。日本で1、2年働いていただいてから母国に帰るケースが多いのですが、日本で実際に暮らして、日本人と一緒に仕事をして、日本人の考え方を身をもって体験するわけですから、実はそれ自体が草の根の国際交流になっていると思っています。

【山崎】それはすばらしい貢献ですね。

宇宙で俳句を詠む

【三宅】日本文化の発信といえば、宇宙に行かれて俳句を詠まれましたね。「瑠璃色の 地球も花も 宇宙の子」。とてもきれいな俳句ですね。

【山崎】ありがとうございます。俳句を詠むことは宇宙に行く前から行おうと決めていました。いまや五・七・五は世界中に広まりましたし、日本の文化と宇宙と地球をつなぐということを考えてもいい方法かなと思いまして。

【三宅】すばらしいですよね。この俳句自体はいつ考えられたんですか?

【山崎】滞在4日目か5日目だったと思うんですが、メインミッションだったロボットアームでの作業が終わり、少し心に余裕ができたときに考えました。

【三宅】どういった思いが込められているんですか?

【山崎】小学校の理科の授業で先生から教わったことがずっと記憶にあったのです。それは「私たちの身体は星のかけらで作られている」ということ。宇宙は人間にとって故郷であり、星も地球も人間も花もみな兄弟であると。

【三宅】素敵すてきな先生ですね。

【山崎】はい。だから私が宇宙に行って無重力を体験したときも、どことなく「懐かしい」感じがしたのです。

【三宅】「60兆ある細胞が覚醒した」という表現をされていますね。

【山崎】本当に抽象的ですみません(笑)。もしかしたらそれは水中にいるときによくある「胎内にいたときの感覚」を思い出しているのかもしれませんが、潜在的に「宇宙は帰る場所」と感じたからなのかもしれません。