現役世代の負担する保険料率は18.3%で固定され、これ以上あがりません。現役世代の負担に上限を設け、受給世代の給付水準を少しずつ引き下げていくことで収支のバランスを取る。それがマクロ経済スライドという制度です。
「年金の給付水準が引き下げられていくのはけしからん」と言って、マクロ経済スライドを行わない、あるいは先送りするとしたらどうなるでしょうか。図をご覧ください。
調整しない分だけ当座の給付(①)が増えますから、その分は将来の給付をより大きく削る(=マクロ経済スライド調整期間を長くする②)か、さもなくば現役世代の負担を引き上げるか、どちらかで穴埋めすることが必要になります。将来の給付とは今の現役世代が受け取る給付ですから、そのツケを支払うのは現役世代です。
マクロ経済スライドをきちんと発動する、先送りしないというのは、結局は今の現役世代の将来給付を守ることでもあるのです。
マクロ経済スライドの導入で制度としての公的年金制度が破綻することはなくなりました。しかし、一人一人の年金水準は少しずつ引き下げられていきます。なので、これからの年金改革の課題は、ミクロの年金保障、一人一人の年金額をいかに確保していくかということになります。
マクロ経済スライドをやめることは困難ですが、その適用期間(=調整期間)を短くすることはできます。調整期間を短くできれば、年金水準の引き下げも小さくて済みます。
マクロ経済スライドの調整期間の長さは基本的に2つの要素で決まります。ひとつは労働力人口(=被保険者数)、つまり支え手の数です。なので、出生率の回復・労働力人口の増大(労働力率の向上)がまず一番の処方箋です。もうひとつは現役世代の賃金=保険料の伸び、つまりは経済成長です。成長して給与や保険料収入が増えればそれだけ年金財政は安定し、将来の給付も確保できるからです。
給付水準を守るための「処方箋」
それを踏まえたうえで、公的年金制度の側でできることは何か。前回14年の財政検証の議論の中で示されている「処方箋」について解説します。
1 支え手の拡大―非正規労働者に被用者年金を適用する。
できるだけ多くの被用者に被用者年金を適用することは、支え手を増やすということになりますから、その分だけマクロ経済スライドの適用期間が短くなって将来世代の年金水準は確保されます。同時に非正規労働者にも引退後厚生年金が支払われることになるので、本人自身の老後保障の充実にもつながります。