前回の財政検証(14年)の際に行った「オプション試算」の結果によれば、250万人の適用拡大で所得代替率はおおむね0.5%ポイント改善されます。さらに一定以上の所得のある非正規労働者をすべて適用する(約1200万人の適用拡大)ところまでやれば所得代替率は5~7%ポイントの改善、マクロ経済スライド調整期間は10年以上も短縮されます。受給者全体の給付水準が確保できて、同時に非正規労働者の老後所得保障も充実する、非常に大きな効果がある改革です。

社会保障制度が、格差を固定化・拡大している

さらに言えば、「働き方の多様化」が進む中、雇用形態の違いや就労時間の違いで被用者を区分して制度適用を違えるのは、社会保障制度が格差を固定化・拡大しているようなものです。「格差是正」という意味でも被用者には被用者にふさわしい社会保障制度を等しく適用するのが、あるべき姿ではないでしょうか。

2 受給開始時期の自由選択制と制度加入期間の伸長

年金受給開始時期の繰り下げは、マクロの年金財政に影響を与えることなく、個人の判断で年金をより有効に活用できる方策のひとつです。

現行制度では、受給開始時期を1年繰り下げると約8%年金額が増額になります。現役時代の貯蓄や私的年金・企業年金と公的年金との組み合わせ方を工夫するなど、自身の判断で本人の生活設計に合わせて年金の受給開始時期を決める(→繰り下げる)ことができるようにすることは、ご自身の年金額を確保するために効果的な方策です。

例えば、現役時代の貯蓄や退職金、私的年金を「中継ぎの生活資金」として活用し、公的年金の受給開始時期をその期間分だけ繰り下げて受給額を増額し、長生きのリスクに備える、といった選択を考えることです。

また、平均寿命の延びに見合って社会全体で就労期間=現役期間を延ばし、その間公的年金制度に加入し続けることができるようにすれば、支え手を増やすのと同じ効果があるため、やはりマクロ経済スライド調整期間は短くなって給付水準は維持されます。そもそも年金制度加入期間が長くなるわけですから本人の年金額そのものもアップします。

前述した前回オプション試算の結果によれば、例えば、67歳まで働き、公的年金制度に加入し続けて67歳から年金を受給する(受給開始時期を2年間後ろ倒しにする)ことにすると、加入期間の伸長と受給開始時期繰り下げの相乗効果で、所得代替率は約15~17%ポイントも上昇します。