「脳の使い方」が偏っていることに問題がある

われわれの「年齢」に関する不安の一つに「記憶」の問題があります。

われわれは、思春期には学校でさまざまなテストを突破すること、青年期、壮年期では会社などで成果を挙げることを期待され、常に記憶力を試されてきました。さらに高齢になると、記憶力に問題の出るアルツハイマー型認知症などの病気のリスクも高まります。

人生100年時代と言われますが、記憶にまつわる心配事に、われわれは常にさらされているわけです。

僕は、脳の使い方に偏りがあることが問題だと思っています。

一度きりの人生ですから、頭も体も、自分の持っている機能は、フルに使いたいところですが、脳の使い方にも人によって癖があり、いつも決まった回路を決まったパターンで働かせてしまう傾向があります。

「思い出す回路」を強化するほどクリエイティブになる

記憶には、「覚える」「保存する」「思い出す」という3つのプロセスがあります。ですが情報過多の現代人は、「覚える」「保存する」のインプットを重視して、「思い出す」をおろそかにする傾向があります。

茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える 思い出す力』(河出書房新社)

しかし今や、情報や知識をインプットすることについては、人間はもはやAIに太刀打ちすることができません。これからの時代、「覚える」「保存する」だけでは限界があり、「思い出す」ことを取り入れることこそが重要なのです。

「思い出す」なんて、年を取った人が、過去をなつかしむだけの行為だと思っている人もいるかもしれません。しかしそれは大間違いです。

脳が思い出そうとしている時に使う回路は、脳が新しいものを創造する時に使う回路と共通することがわかっています。つまり思い出す回路を強化すればするほど、物忘れをしなくなるだけにとどまらず、クリエイティブな能力を高めることができるのです。

まさに現代にこそ必要とされる「思い出す力」ですが、それを強化するのは誰でも簡単にできます。毎日の生活の中でほんの少しの時間、意識するだけでも十分。もっと言えば、ボーッとするだけでも効果があります。

思い出す力を存分にいかすこと。それがAI時代に必要とされている新しい脳の使い方なのです。

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